あえて部下たちに休日返上を命じた

横浜港を一望に見渡せるみなとみらいセンタービル。すぐ近くには、横浜ランドマークタワーもある一等地だ。大和ハウス工業横浜支店が、ここに入ったのは竣工なったばかりの2010年7月のことである。

大和ハウス工業横浜支店長
山崎考平

1961年生まれ。兵庫県出身。85年、入社。2009年より現職。横浜支店着任前の滋賀支店長時代、滋賀住宅営業所が、07年下期、08年上期、08年下期、3期連続で全国のNo.1住宅営業所となる。

「月末の金曜日に、地元財界の方々を招いて、ささやかな感謝の集いを開きました。成功裏に終わって『明日は休みだ』と、ホッとしているスタッフに私は『いや、待て。明日の午前中だけでもオフィスに出て、礼状の発送をしなさい』と伝えました」

この言葉の主は、09年4月から同社横浜支店長の任にある山崎考平。前任の滋賀支店長時代、彼が管轄する滋賀住宅営業所は、07年下期、08年上期と下期、3期連続で全国ナンバーワン営業所になっている。数年前のミニバブル後のどん底の住宅不況を考えれば、この実績は特筆される。その手腕は横浜支店でも発揮され、このところ収益性が上向いてきた。それが彼の強気な指導につながっている。

彼があえて、部下たちに休日返上を訴えたのは、お客一人ひとりへのきめ細かい心配りを考える“個客思考”の根幹に関わる問題だからである。それは、礼状が出席者の手元に届くタイミングさえ考慮するということだ。晴れやかな記憶が色あせないうち、つまり、月曜日の午前中に手にしてもらうのがベストだ。何日もたってからもらっても感動は少ない。ちょっとした気配りが出席者の深い信頼を生む。

山崎は「私はいつも、一割多く仕事をするように心がけています。例えば、ライバルが10件訪問するなら、私は11件回ろうとか……。お客様が設計図を見たいといえば、完成予想図も持参するといった具合です。もちろん大変ですよ。でも、それが差別化になるんです」と強調する。

だから、部下の言い訳も厳しい目で峻別していく。

「営業マンはよく『価格のせいで他社に負けてしまいました』という言い訳をしてきます。でもお客様が価格だけで住宅を購入することはまずありません。つまり、その言い訳にはウソが含まれているのです。ですから、そんなときは『いくらでも値段を下げてもいいからその案件をとってきなさい』と突き放すこともあります」

部下の一番痛いところをつき、猛烈な反省を促す。それが山崎の流儀だ。

「訪問先のドアのチャイムを鳴らしたとき、営業マンの誰もが『留守ならいいな』と心のどこかで思うはずです。そんな気持ちをどう上司がコントロールするかが大事です。玄関先に錆びた三輪車があったら、ここのお母さんは、思い出の品を捨てずにいる子供思いの人なんだな、と察することができるのか。とにかく、部下に手ぶらで帰らせてはダメなんです」

こんな山崎を支店の部下たちは「怖い」と思うらしい。けれども、彼は感情的に怒ったことは一度もないという。ただ、部下のウソやごまかしは見過ごさない。上司を騙すならまだいい。しかしそんな社員は、やがて自分自身をごまかし、お客様を偽るようになる。だから、気づいたら、その場で叱責する。

住宅・マンションの国内市場が縮小している昨今だからこそ、山崎のような姿勢がより一層大切だろう。社員への厳しさは、顧客にとっては、安心のサービスになっていく。それができる支店長の存在は貴重だ。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(岡本 凛=撮影)
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