スパイというとかっこいいイメージもあるが、実際の自衛隊「別班」メンバーはどんな気持ちで極秘ミッションをこなしているのか。「別班」の取材を続ける共同通信の石井暁さんは「これまで何人もの元・別班員に対面した。彼らは普通の自衛官とは明らかに違い、冷徹な眼をしている。非公然秘密情報組織という形態が人格を歪めてしまっているのではないか」という――。

※本稿は、石井暁『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

街を見下ろす男性の後ろ姿
写真=iStock.com/kieferpix
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「実際の別班メンバーに会ってみたい」という願い

自衛隊の現役幹部やOBに取材を継続していくと、別班というジグソーパズルのいろいろな形をしたピースが集まり、少しずつ絵が見え始めてきたという感じだった。しかし、集めたピースは、別班を知る関係者の証言と、かなり年配の別班OBらの証言に過ぎない。

「現役の別班員の声が聞きたい。その姿を見てみたい」

こうした欲求は、日増しに高まっていった。しかし、別班という組織の本拠地がどこにあるのかさえわからない。もちろん、別班本部の連絡先や別班員の携帯電話番号など、入手できるわけがない。

仲のいい防衛庁(防衛省)・自衛隊の情報畑の現役、OB幹部に仲介を懇願しても、「それは無理だ」「何を言っているんだ」と呆れられるだけだった。現役、OBたちの中には、個人的に現役別班員を知っている人もいたと思うが、なにせ非公然の秘密情報組織だ。記者に紹介するなんて、あまりにも危険な行為であるのは明白だった。自分の身の安全も考慮しなければならないのは当然だ。

陸上自衛隊幹部の別班経験者に偶然めぐり会った

そうしたところ、陸上自衛隊の現役幹部(以下、Aとする)に話を聞けたのは、まさに偶然の賜物だった。別班の取材を始めた時期の前後、防衛省とは無縁の社会部OBの先輩に「陸上自衛隊幹部なんだけど、面白い奴がいる」と紹介してもらった。今振り返ると、考えられないほどすばらしいタイミングだった。

当時Aは、情報関係の部隊に所属しており、数カ月に一度ほど、都内の飲食店の個室に待ち合わせ二人きりで会っては、情報交換をするようになっていった。

彼との情報交換は非常に有益だったが、「まだ別班の件は話すのは危険だ。情報関係者に漏れる可能性がある」と考えた私は、あえて話題に上げなかった。しかし、取材開始から1年ほど経過した頃、Aから不意に「今、一番関心があることは何か」と問われたため、イチかバチかで話してみようと決意した。現役の別班員に取材するという計画が、行き詰まっていたからだろう。

「ご存じだと思うが、陸上自衛隊に非公然の秘密情報部隊『別班』という部隊がある。その部隊が海外に拠点を設けて、情報収集活動をしていると聞いたが」

思い切って切り出すと、Aは複雑な表情を浮かべた。そしてこう話し始めた。

「実はかつて別班にいたことがある。ある事情で(別班を)辞めざるを得なくなったが……」

まさかの展開、だった。