※本稿は、富永喜代『女医が導く60歳からのセックス』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
EDは「動脈硬化の初期症状」
「勃起」と聞くと、一般的にはペニスに血液が流れ込むことをイメージする人も多いでしょう。「ペニスが脈打つ」という表現もあります。
男性の場合、性的な刺激を受けると、まず脳の中枢神経が興奮し、その情報が脊髄神経を通ってペニスに伝わります。すると、これが勃起のGOサインとなり、一酸化窒素(NO)が放出され、血管が拡張し、陰茎海綿体に血液が流れ込んで勃起が起こります。
しかし、そうやってペニスの海綿体に流れ込んだ血液がすぐに心臓に戻ってしまえば、また元通りになってしまいます。大量に流れ込んだ血液をペニスにとどめておくことによって初めて、勃起状態が維持できるわけです。簡単にいえば、勃起には、①血液が滞りなく流れ込むこと、②流れ込んだ血液をペニスにとどめておくことの2つの機能が必要になります。
それでは、まず血液の流れについて考えてみましょう。血液は心臓から全身を巡り、再び心臓に戻るわけですが、心臓から血液を運ぶ「往きの道路」が動脈です(「帰りの道路」が静脈となります)。
動脈は体に必要な酸素や栄養分を運んでいますが、この動脈の壁にコレステロールが溜まってしまうと、血管は硬くなり柔軟性を失い、血液の流れが悪くなってしまいます。この症状が「動脈硬化」です。
動脈が非常に細く、影響を受けやすい
動脈硬化による血液の詰まりは、全身で進みます。動脈硬化が脳で起これば脳梗塞に、心臓で起これば狭心症や心筋梗塞に、ペニスの動脈(陰茎背動脈)が詰まるとEDに陥ってしまいます。
しかも、心臓の冠状動脈の太さは3~4mm、心臓から脳へ血液を送る内頸動脈の太さは5~7mmであるのに対して、陰茎背動脈の太さはわずか1~2mm。つまり、非常に細い陰茎背動脈は、動脈硬化の影響を真っ先に受けやすい血管であるといえます。そのため、「EDは動脈硬化の初期症状」ともいわれます。
心臓から送り出された血液がペニスにたどりつくまでには、長い道のりを経ています。心臓からスタートし、背骨に沿って動脈を下降し、骨盤の後ろ、さらに骨盤の底(骨盤底筋)を通って、ようやくペニスにたどりつきます。
心臓からペニスまで、体内の長い旅を経た血液が行きつく先は、わずか1~2mmの陰茎背動脈。そのとても細い血管が、動脈硬化によって硬くなってしまったとしたら……血液の流れが悪くなるのは、イメージしやすいかと思います。