古代の女性は生理の出血にどのように対処していたのか。歴史学者で英BBCの人気ポッドキャスターのグレッグ・ジェンナー氏が子供たちの質問に答える『ロンドン大学歴史学者の「歴史のなぜ」がわかる世界史』(かんき出版)より、一部を紹介しよう――。
ローマ人は「不健康が当たり前」だった
『20世紀以前の女性は、生理のときはどうしていたんですか? アリーより』
これお決まりの質問だ。日常生活の歴史を取り上げた僕の最初の本『100万年を1日で(未邦訳)』のプロモーション・ツアーでは、公開イベントを開催するたびに、最もよく訊かれた質問がこれだった。もちろん僕は答えることができるよ、アリー。しかし人類の発祥以来、地球上でこれまでに約540億人の女性が生きていた。その多種多様な経験をすべて取り上げることは不可能だ。そこで、ここでは僕が最もよく理解している地域、つまりヨーロッパとアメリカに範囲を限定する。
最初に言っておきたいが、多くの女性にとって「生理」とは、単に月に一度訪れる不愉快な出血というだけでなく、健康状態の変化という気がかりな問題にも関係していた。抗生物質が誕生する以前の時代には、食料は少なく病気は風土に根ざし、多くの人がビタミン不足、病気、ストレス、あるいは過労に悩んでいた。
医療の歴史に詳しい歴史学者のクリスティ・アップソン=サイア博士は、ローマ人にとっては不健康こそが普通の状態で、健康な状態はめったにない幸運だったと、以前ポッドキャストで対談した際に僕に教えてくれた。
実際、18世紀のエディンバラでは、栄養豊富な食べ物の乏しい冬になると、貧しい女性たちは生理が止まってしまうことが多かったと、国立アメリカ歴史博物館のアレクサンドラ・ロード博士も述べている。1671年には助産婦ジェイン・シャープが、生理の出血は「早すぎたり遅すぎたり、多すぎたり、あるいは少なすぎたりする。完全に止まってしまうこともある」と記している。