ハイヒールはいつ誕生し、どのように流行していったのか。歴史学者で英BBCの人気ポッドキャスターのグレッグ・ジェンナー氏が子供たちの質問に答える『ロンドン大学歴史学者の「歴史のなぜ」がわかる世界史』(かんき出版)より、一部を紹介しよう――。
ハイヒールを履く女性
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「女性的な姿」を象徴するハイヒール

『ハイヒールはいつから流行し、女性になぜ人気なんですか? マーガレットより』

ハイヒールを見ると、何を連想する? 僕がたちまち思い浮かべるのは、2つのポップ・アイコンだ。1つは、店のショーウィンドーに飾られたクリスチャン・ルブタンのピンクの華やかな靴をじっと見つめて「ハロー、愛しい靴!」とささやくキャリー・ブラッドショー。これは当時の時代精神をうまくとらえて大ヒットした『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998年から2004年にかけて放映されたアメリカの連続テレビドラマ)の場面だ。

もう1つは映画『キンキーブーツ』(2005年に公開された英米合作のコメディー映画)で、ゴージャスなキウィテル・イジョフォー演じるドラァグ・クイーンのローラが、ヒールが壊れない、安心して履ける奇跡のような革製ブーツを求めている。キャリーはまるで一流芸術品のように靴を崇拝し、ローラはそれを、「ヒールをご覧、お兄さん。セックスはヒールに宿るのさ」というシグナルを発するメッセンジャーとしてとらえている。

どちらの場合も、ヒールは実用的でなく、高価で、壊れやすく、そして女性的な姿を誇示したい人に熱愛されている。しかし実はハイヒールの歴史はこれとはまったく異なる。もともとヒールは男性のものだった。それもすべての男ではない、戦士のためのものだったのだ。

もともとは男騎兵のための靴だった

ヒールが最初に登場したのが正確にいつだったかは知られていないものの、1000年前の中世ペルシア騎兵はこれを履いていた。騎兵が弓をひくために手綱を離したとき、ヒールであぶみに足を固定させて体を安定させたのだ。

カナダのトロントのバータ靴博物館で豊かなコレクションを管理するエリザベス・センメルハック博士によると、この特徴的なペルシアの靴がヨーロッパに伝わったのは16世紀末で、強力なオスマン・トルコ帝国に対抗するための同盟相手を求めたサファヴィー朝ペルシアのアッバース1世がヨーロッパ人外交官をもてなしたことがきっかけだったという。こうして新しい流行が生まれ、まもなく、ヨーロッパの多くの絵画にハイヒールが描かれるようになる。