15億超の損害賠償と謝罪広告を求めて提訴
5月9日、東京証券取引所内にある記者クラブ「兜倶楽部」で注目の記者会見が行われた。
会見したのは、エレベーターメーカー「フジテック」(本社:滋賀県彦根市)の前会長・内山高一氏とその代理人弁護士である河合弘之氏ら。同社の大株主である香港拠点の投資ファンド「オアシス・マネジメント」(以下オアシス)や同ファンドのセス・フィッシャー最高投資責任者らが、内山氏や家族にまつわる虚偽情報を流布し、プライバシーを著しく侵害するなど、38件の名誉毀損行為があったとして、15億4000万円の損害賠償と謝罪広告掲載などを求めて東京地裁に提訴した、と発表したのだ。
いくつかの新聞・通信社などが提訴の事実だけを短く報道したが、実はその詳細は、日本の証券市場のありかた、また近年活発化している「アクティビスト・ファンド」と呼ばれる投資ファンドの実態、さらには狙われる日本企業に関わる経済安全保障の問題までも内包しており、極めて重要なケースである。
会見前後、内山氏と河合弁護士それぞれに個別で話を聞いた。
まず、事案の経緯をかいつまんで説明しよう。
「8つの疑惑」で社長退任要求キャンペーンを展開
故・内山正太郎氏が1948年に創業したフジテックは、売上高約2000億円、営業利益約120億円(2023年3月期)規模、エレベーター・エスカレーターメーカーとして国内4位、専業メーカーとしては最大級の企業だ。内山氏は創業者の長男であり、2002年に3代目の社長に就任。以来、2022年に社長を退かざるを得なくなるまでの20年間で売上高を2倍、営業利益を4倍にまで成長させた立役者だ。
2022年5月、フジテック株の9.73%を保有するオアシスは、『フジテックを守るために』と題したウェブサイトを開設。社長であった内山氏がフジテックを私物化していると主張し、8つの「疑惑」とする項目を掲げて退任要求キャンペーンを展開した。
フジテック側にも申し入れを繰り返し、他の株主にも同調を求めるなどした結果、翌月の定時株主総会でフジテックは内山氏の取締役再任議案を直前で撤回せざるを得なくなり、内山氏は代表権のない会長に退くことになってしまう。
その後、オアシスはさらに保有比率17.26%まで株を買い増し、社外取締役の入れ替えを求めて臨時株主総会の開催を要求。そして2023年2月24日に開催された臨時株主総会で、フジテック側の社外取締役のうち3人が解任され、オアシス側が推挙した外国人2人を含む4人が選任。その後3月28日の取締役会で、要求通りに内山氏を会長職からも解任する決議をしたのだ。