※本稿は、Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
富士通社長がダボス会議で見たもの
2020年1月、富士通株式会社の時田隆仁社長(以下、時田と略す)はスイス東部のダボスで開かれる世界経済フォーラム年次総会、通称「ダボス会議」に参加していた。
20年は、「Stakeholders for a Cohesive and Sustainable World(ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界)」をメインテーマに据え、世界各国の首脳や閣僚、学界や産業界から名だたるメンバーの計約2800人が、人口約1万1000人の小さな街に集結し議論が重ねられた年であった。
時田はSAP、アクセンチュア、HP、エリクソンなど名だたるグローバル情報通信企業の経営トップが、今後のIT産業の方向性について議論する「ICT Governors Meeting」に参加。IoT、エッジ、クラウドコンピューティング、AI(人工知能)、そして、それらを組み合わせたユビキタス知能の将来の発展などについて、その市場形成やステークホルダー間の連携の機会とリスクについて意見が交わされた。
その議論の中で、時田は衝撃を覚える。
各社のCEO(最高経営責任者)が熱を持って語っているのは、これらのテーマに関する技術論やそれらの活用方法だけではなく、その先にある社会や人の暮らし、そしてそこに横たわっているであろう社会課題の解決であった。
「自社商品の先に社会課題解決がある」という考え方
「5Gを普及させる以前に、世界には3Gや4Gすら使えていない人がいる。そうしたデジタルデバイド(格差)の要因ともいえる貧困をどう撲滅するのか」――。話題は、そんな領域まで広がりを見せた。
「彼らは事業を語るときに、必ず社会課題やサステナビリティについて考えています。ビジネスを通じたグローバルな社会課題の解決を、自社の存在意義(パーパス)として言及しており、正直なところ大きな衝撃でありながらも、とても共感を覚えました」と時田は述懐する。
例えば、SAPはその企業の存在意義を「サステナビリティを中心として、より良い世界の実現と人々の生活の向上を支援すること」としており、そのイネーブラー(目的達成のための人・組織・手段)として自社の商品を位置付け、その事業運営を目的実現のための模範となることと定めている。つまり、グローバルIT企業でありながら、社会課題の解決を戦略の中に織り込んでいる企業へと変革が進んでいたのである。