オバマケアの普及を阻んだ「経路依存性」とは

③高度経済成長期から組まれた人事制度などの仕組みの経路“相互”依存性

どの社会、どの産業、どの企業にも経路依存性という問題が存在する。経路依存性とは“Path Dependence”の訳であり、過去の経緯や歴史、出来事による制約を受けることで、現在において優れた、合理性のある技術や施策が必ずしも広がらない現象を表す。

アメリカではオバマ政権時に国民皆保険を目指してオバマケアが導入されたが、いまだに雇用主が提供する民間医療保険が中心的役割を果たしている。国民皆保険は歴史的な試みとして導入が図られたが、民間医療保険の導入を進めてきた企業の賛同が得られずに何度も挫折している。これは、経路依存性による政治課題の一例である。

2022年10月、トヨタ自動車がEV用に開発した「e-TNGA(Toyota New Global Architecture)」というプラットフォームの見直しのニュースが流れた。EVもガソリン車やハイブリッド車と同様に同じ車台で生産できるという設計思想が狙いであったが、報道によるとテスラなどのEV専業のメーカーと比較して開発コストなどの面で競争力が保てず、その見直しを余儀なくされたということだ。これも見方としては経路依存性の問題の1つともいえないだろうか。

EV専業で起業した企業はこれまでの自動車メーカーの発想とは全く異なる設計思想でものづくりを行っており、従来のOEMメーカーらは安全面・品質面・コスト面などガソリン車をベースに膨大な経験と知識を基に生まれる自社の発想から脱却する必要がある。そのような危機感が今回の見直しに繋がっているのかもしれない。

年功序列や終身雇用ベースの制度が足かせに

日本企業の変革を阻むものとして、特に制度・仕組みの経路依存性の問題が大きいと思われ、人事制度については、それが更に複合的に組み合わさって制度同士が相互依存していることで問題の根を深くしていると見ることもできる。

Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)
Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)

高度経済成長期においては有効に機能していた年功序列や終身雇用をベースとした多くの制度や仕組みの多くが、変化の激しくなった現代では通用しなくなっているということは最早明らかだろう。終身雇用制、メンバーシップ型雇用、労働組合など経路依存もありながら、複雑に相互依存していることで環境の変化に迅速に対応できず、良くても単発の変革に終わっている。

他にも日本企業の変革を妨げているものはあるものの、特に売上が数千億円以上になる大企業ではここに挙げた3つは共通の課題として見られている内容ではないだろうか。事業環境の変化が激しい業界、つまりスピード感を持って抜本的な改革を実現していくことが求められる業界では、これらの課題が顕在化する。IT業界はまさにそれらが極めてダイレクトに適用される世界でもあり、我々と最も近しい関係にある富士通もそれは例外ではなかった。

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