2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年12月6日)
国会議員や会社経営者などのエリートたちは、社会的地位が高いにもかかわらず、なぜスキャンダルを起こすのか。医師の和田秀樹さんは「バカだからだ。まさか自分は失敗しないだろうと思っているのだろう。医師として、非常に危ういものを感じる」という――。

※本稿は、和田秀樹『50歳からの「脳のトリセツ」 定年後が楽しくなる!老いない習慣』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

頭を抱えた医者
写真=iStock.com/kuppa_rock
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最初に縮みはじめるのは、意欲と感情をつかさどる前頭葉

脳は前頭葉から衰え、前頭葉が衰えると、脳全体が衰えます。

脳の研究者の間では、かなり早い時点から、脳で最初に縮みはじめるのが前頭葉であること、それが40代ごろから始まることが知られていました。

その一方で、前頭葉の役割については、長らく解明されていませんでした。脳のなかでもっとも大きな部位であるにもかかわらず、20世紀に入っても未知の領域だったのです。

前頭葉の役割がわかったきっかけとなったと言えるのは、ロボトミー手術でした。

1930年代にE・モニスという神経科医が、統合失調症の治療法として、前頭葉の一部を切除する手術が有効だと提唱しました。これが、ロボトミー手術です。

ロボトミー手術は、画期的な治療法として一躍脚光を浴びました。たしかに、前頭葉の一部を切り取ると、統合失調症の興奮症状が鎮静化するのです。しかも、側頭葉や頭頂葉がつかさどる言語能力や計算能力、つまり「知能」には影響しません。まさに理想的な治療だと思われました。この功績により、モニスは1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞するに至ります。

ところがその後、弊害が次々にわかりました。手術を受けた人たちが、意欲が極端に低下して終日ボンヤリとしてしまったり、感情の切り替えがきかず興奮状態が止まらなくなったりする症状を呈したのです。

一転、ロボトミー手術は禁忌の手術となり、モニス自身も、恨みを抱いた患者から銃撃され、終生半身不随となりました。

悲惨な結末を迎えたロボトミー手術ですが、こうした経緯により、前頭葉の役割が意欲と感情のコントロールであることが、期せずしてわかったのです。それまでも、事故などで前頭葉を損傷した人が同様の症状を呈する報告はありましたが、手術を受けた多くの人に似たような症状が現れたのです。