新しいことが覚えられないのは要注意

一方、心配すべき記憶障害もあります。「記銘力障害」です。新しいことが覚えられなくなる症状です。

原因は神経伝達物質「アセチルコリン」の減少、それによる海馬の機能低下など。そのほか、うつ病がきっかけになることもあります。

認知症の方は、30分前にした話を忘れてまた最初から繰り返したり、食事を摂ったのに「食べていない」と言い張ったりすることがあります。それは、脳に新しく情報を書き込む力が落ちているからです。

この症状が中年期から起こる人は、ごく少数です。しかし、前例踏襲傾向の強い人はやはり、警戒が必要です。前例踏襲もまた、新たな情報を脳に書き込めない兆候と言えるからです。

IT化に対応できなかったり、過去の成功体験にしがみついていたりするなら、黄信号です。仕事以外のことでも、「変えたくない、今のままでいい」と思う人は、前頭葉の老化を進行させる危険があるのです。

「頭のいい人はずっと頭がいい」はウソ

私は世の中に、「頭のいい人」と「バカな人」がいるわけではないと考えています。どんなに頭のいい人でも、バカになってしまうときがあります。

頭のいい人がバカになってしまった代表例が、既得権益に群がる「偉い人」たちです。

こうした人たちは高い地位に上り詰めたあと、努力しなくなります。肩書を得ることが目的化し、肝心の仕事内容に対する関心が薄れるのです。時代の変化についていこうとせず、「自分は賢い」と思い込み、従前のやり方に固執するといった行動は、「知的怠惰」と呼ばれるものです。

この怠惰に流されると、周囲の言葉に耳を傾けなくなります。部下からいいアイデアが出ても、その可能性を見過ごしたり、握りつぶしたりします。頭のいい人の行動とはとうてい思えませんが、「偉い人」ほど、こうした「バカ化」のリスクが高くなります。

頭のいい人がバカになる現象には、もう1種類あります。それが、感情のコントロールがきかなくなったときのことです。

元エリート官僚だった国会議員の方が、カッとなって秘書を罵倒した音声が公表され、大騒ぎになった一件がありました。

部下を叱る女性上司
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

留学経験もあるエリート官僚だったのですから頭のいい人なのでしょうが、あの金切り声を聞くと、とてもそうは思えません。

恋に狂ってスキャンダル写真を撮られたり、業績アップの圧力に耐えかねて粉飾決算をしたりするのも、このタイプの「バカ化」に飲み込まれた結果です。

この2種類の「バカ化」は、誰にでも起こる現象です。

しかし日本では「頭のいい人はずっと頭がいい」という認識が強いようです。

アメリカ人は、頭のいい人もバカになることを認識しています。会社経営をする人は、専属の精神科医を相談相手とし、定期的にカウンセリングを受けるのが常識です。感情などに歪められた誤った判断をしないための、転ばぬ先の杖です。

日本の経営者に、そうした予防策を講じている人はめったにいません。「自分がバカになる瞬間はない」と思っているのでしょうか。医師として、非常に危ういものを感じます。