ネットフリックスは「情報」と「選択」を増やし過ぎない
では、なぜ今、世界のビジネス界で、行動経済学が注目されているのか。それは、お金が動く「経済」という枠組みの中で、人はどう行動するのか、それはなぜなのか。それを理解することがビジネスでは重要であり、それを明らかにするのが行動経済学という学問だからです。
こうして、行動経済学が広まった現代を生きる私たちの周りには、すでに行動経済学が組み込まれた商品やサービスが溢れています。特に効果的に使っているのはFAANGでしょう。
例えば、動画配信サービス・ネットフリックスは1997年の創業当初はDVDのレンタル会社でしたが、2007年から動画配信事業に移行しました。2億人を超えるユーザーを持ち、巨大IT企業に成長した大きな要因のひとつが、行動経済学を効果的に使ったレコメンド機能と言えます。
動画配信サービスは「何か面白いことがないかな?」という、年齢も性別も国も好みも違う人たちに応えるために、何百万ものコンテンツを揃えなければなりません。また、何百万というコンテンツはマーケティング戦略には必須でしょう。
しかし、あまりに数が多すぎると、ユーザーは選べない。では、どうするか? ――そのために作られた戦略には、おそらく行動経済学が入っています。
ネットフリックスのユーザーならよく知っている通り、アプリを立ち上げ、自分の名前をクリックすると、すぐにいろいろとおすすめの番組が現れます。ユーザーはこのレコメンド機能に従って視聴できますし、さらに関連する番組も並べてくれるので、自分で深く考えなくても次々と好みの作品を選ぶことができます。
また、アプリを利用すればするほど、どんな作品を好むかのデータが集まり、より精度は高くなります。
「人は情報も選択肢も多ければ多いほどいい」というのが合理的な個人を前提とする伝統的な経済学の答えですし、消費者自身も顕在意識としては「たくさんの選択肢があったほうがいい」と考えます。
しかし、行動経済学は「情報や選択肢が多すぎると、人は最適な意思決定ができないばかりか意思決定自体ができなくなる」と解釈しています。行動経済学の理論で、「情報オーバーロード」「選択オーバーロード」という状態です。
そこでネットフリックスは、何百万ものコンテンツを用意した上で、ユーザーが実際に目にする情報や選択肢については適量に絞って最適化している――それがレコメンド機能です。