※本稿は、相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
世界のトップ企業が取り入れる「行動経済学」の知識
グーグル、アマゾン、アップル、ネットフリックス……。実は今、世界のトップ企業がこぞって取り入れている学問があります。それが「行動経済学」です。
行動経済学は「人間の行動の原理」を明らかにする学問です。そして、ビジネスが相手にするのは、まさしく「人間」。ですから、行動経済学を知れば、ビジネスを取り巻く消費者の理解につながるのです。
そんな中、最近、グーグルで働く友人と会ったとき、近年高まる「プライバシー」の問題が話題になりました。自分の検索ワードが追跡され、おすすめ広告が送られてくるというのは、これまでは当たり前のように行われていましたが、情報漏洩が懸念される今、問題になっています。
そのような流れを受けて近年、グーグルだけでなくあらゆるサイトやアプリなどで、プライバシーについての設問が設けられる機会が増えました。
例えば、新聞社のニュースサイトにメールアドレスを登録しようとすると、「関連するメールマガジンBとCも読む」「プロモーション情報を送る」というチェックボックスが設けられているのを見たことがあるのではないでしょうか。
そういった情報を注意深く見てみると、大抵は「読む・送る」のほうにチェック印がついています。これも行動経済学から考えて、実に巧妙な戦略です。
人は「変更すること」を面倒に思う
なぜなら、人は変更することを面倒に思う生き物だからです。「変更しなければならない」というだけで、見えない壁のようなものが邪魔をします。特に疲れたり忙しかったりすると、脳は注意力散漫になり、意思決定をしないことを選びます。「どっちでもいいこと」であるときも同様です。
また、「変更して、気が変わったらどうしよう」とか、「役に立つかもしれないし、タダだからそのままでいいや」と、なんだかそっちのほうがよくなってくることも多々あります。
ですから、売り手側としては相手に選んでほしい「読む・送る」のほうを「デフォルト」にしておくのです。その結果、チェック欄には印がついたままになり、消費者はマガジンやプロモーションのメールを大量に受け取ることになります。
行動経済学の知見を取り入れている会社、特にグローバルなテックの大手はデフォルトを変えるだけで、億の人たちの行動に影響を与えることができます。
消費者側としては、この現状を知ってデフォルトにも注意を払うべきですし、ビジネスをする側としては、「売りたいものはデフォルトにしておく」という戦略が立てられます。