臓器提供の同意率が高い国の共通点

私がいくつか共同研究をさせていただいたコロンビア大学教授のエリック・ジョンソンらによる「デフォルト」に関する興味深い臓器提供についての調査があります。

「あなたがもしも事故に遭って亡くなったとしたら、臓器提供をしますか?」

あなたならどう答えるでしょうか。図表1は臓器提供の同意率をヨーロッパの国別に比較した研究です。オーストリア、ベルギー、フランスなどはほぼ全員が「提供する」となっており、逆にオランダは30%足らず、イギリス、ドイツは20%に満たないという低い数字。デンマークに至っては提供する人は4.2%です。

すべての国はヨーロッパ内であり、この差は文化や宗教観が原因ではありません。なのに、なぜこんなにも大きな差が出てくるのか――理由は単純で、100%近くの人々が臓器提供に合意している国では「ノーとチェックを入れない限りデフォルトで臓器提供者となる」と定められているのです(図表2)。

「デフォルト」の設定が商売に与える影響

反対に、臓器提供の合意率が低い国では、イエスとチェックを入れないと、臓器提供者にはならないようになっています。

臓器提供は判断が非常に難しい問題なので、人はなかなか選ぶことができません。だからこそ、デフォルトのままにしてしまいます。

臓器提供は特殊な例でしょうが、他の大抵のことにもデフォルトがあり、たとえ設定されていなくても、人の脳の中に「これがデフォルト」という基準が存在します。

「本日のランチ」「好きなブランド」「ランキング1位の本や音楽」。これらはまさに日常に潜んでいる「デフォルト」です。だから、消費者も選びやすいのです。

販売する側は上手くデフォルトを設定すれば、「売りたいものを売れる上に、消費者に満足を与えられる」という一石二鳥となります。なぜなら選択オーバーロードの状況にさらされている人にとって、「迷わずに選べる」というだけで満足度も上がるからです。