仮釈放されやすい「3つのタイミング」
「デフォルト」が人の判断にどれだけ影響するかを示す例をもう一つ紹介しましょう。イスラエルの裁判所で行われた調査です。
この調査では、同刑務所で「仮釈放」を出した1100件の例を分析。「仮釈放」の結果が「時間帯」の影響を受けるのかどうかを調べました。
仮釈放するかどうかは裁判官による囚人の審問で決まり、いつどの囚人の審問かというのは一日中ランダムな順番で行われますが、観察の結果、「仮釈放が認められやすい時間帯」が一日に3回あることがわかりました(図表3)。
朝一の審問だと65%の囚人が仮釈放を認められているのは、裁判官の脳もやる気に満ちているからでしょう。それが昼に近づくにつれて徐々に下がっていくのは「決定疲れ」の影響です。
ところがランチ休憩を挟むと再び仮釈放の確率が上がり、やがて徐々に下がっていく。その後、午後の休憩を挟むとまた仮釈放の確率が上がる――仮釈放率65%からゼロへと徐々に下降していく「3つの山」ができていました。
「仮釈放する」とは、かつて罪を犯した人を世の中に送り出すことで、「更生しているか、再犯は大丈夫か」など、慎重な意思決定が求められます。
だからこそ、朝や休憩後の脳がリフレッシュされた状況下で「仮釈放」の判断が増えるのです。
疲れている人は「リスクの低い方」を選ぶ
しかし、繰り返し判決を下していると、裁判官の判断は単純化されていきます。囚人の要求を拒否し、「もうしばらく刑務所に入れておく」という「現状維持バイアス」が働いたリスクの少ない意思決定をするのだろうと研究者たちは考察しています。「疲れたときはリスクの低いデフォルトを選ぶ」とも言える調査結果です。
リフレッシュの大切さは日常でもよく言われていると思いますが、その裏にはちゃんとエビデンスがあるのです。これは「勤勉=美徳」となっている日本の社会人には特に気をつけてほしい点です。一日の中での休憩をしっかり取るのはもちろんのこと、毎日の働きすぎには注意を払っていただきたいです。
時間帯による変化を踏まえるのは、刑務所での「仮釈放」の判断だけはなく、「ネット広告の時間帯」などにも考慮することも有効です。例えば、住宅や自家用車、保険といった高額で慎重に考えて購入するものについては、人は慎重に吟味するので、脳にエネルギーのある「朝」や「ランチ休憩」の後に配信する。
逆にファストフードの新製品や衝動買いを狙うファッションアイテムは、直感的に「ほしい」と思わせることが重要なので、消費者の脳が疲れている「夕方」から「夜」がいいとされています。ついつい夜遅くにネットショッピングで無駄遣いしてしまうのもそうでしょう。