うちの回線をパンクさせたのはお前か!

「赤ちゃん110番」には回線をパンクさせるほどのコールがあったが、情報料の徴収ができなければビジネスとしては成立しない。今野さんは、電電公社に情報料の代理徴収を依頼するため交渉に出かけていったが、とりつく島がなかった。たらい回しにされた挙げ句、最後の最後に出てきたのが当時の営業局長・遠藤正介、作家・遠藤周作の実兄だった。

今野さんが、「私のニュービジネスのおかげでお宅の回線がパンクするほど稼がせてあげているのだから、せめてその半分をわが社に払ってくれるか、それを全部欲しいなら、情報料課金という新たな制度を作って、それを代理徴収してわが社にペイバックしてほしい」と切り出すと、

「うちの大事な回線をパンクさせたのはお前か! 女は家に帰って子どもでも産んでろ!」

と面罵された。現代ならセクハラ、パワハラでは済まない話だろう。

その後も、課金を認めようとしない遠藤とのバトルは延々と続いた。

「遠藤さんは、表面的には一番私をいじめた人でしたね。もう、パワハラなんてもんじゃないですよ。私が悪いのか、あなたが悪いのか、罪はいったいどっちにあると思いますか! なんて喧嘩を、何回もしました」

しかし、遠藤は懐のある人物だった。これはwin-winの取引なのだと唱え続けて一歩も引かない今野に、電電公社の幹部を集めて講演することを提案してくれたのである。

「この、大泥棒!」

「あなたたちは、私たちが作り上げたさまざまな『110番』サービスで、いったいどれだけ売り上げを上げているんですか? 本来のその売り上げは、このサービスを生み出したわが社に還元されるべきものでしょう。どうして電電公社だけがお金を盗むの? この、大泥棒!」

幹部を前に今野さんは吠えた。しかし、今野さんの訴えが幹部たちの心を動かすことはついになかったのである。

その後、スポンサーの開拓が進んだことでダイヤル・サービスの業容は拡大し、守備範囲も、育児相談から、食の相談、身体障害の相談、健康相談、熟年相談、ハラスメントの相談など多方面に拡大していった。近年ではダイヤモンド・プリンセス号の乗員・乗客向けに「看護師相談窓口」(厚労省コロナウイルス対応支援窓口のひとつ)を開設するなど、時宜を得た電話相談サービスを展開している。

20年越しの戦いの末に実現した制度

今野がいわゆる大物たちとのチャンネルを数多く持っているのは、おそらく、スポンサー契約の締結をたくさんの大物に“直訴”してきたからだろう。

「どうやって訴えるのかって? それは、自慢のこの爪と歯を使うんですよ(笑)。下の妹たちを悪ガキから守るために、子どもの頃から、噛んだり引っかいたりしてきましたからね」

「この爪ね、結構痛いんですよ。試してみます?」とユーモアたっぷりの今野さん。
撮影=市来朋久
「この爪ね、結構痛いんですよ。試してみます?」とユーモアたっぷりの今野さん。

なぜ、今野さんは戦うのだろうか。

「ダイヤル・サービスに殺到してくる悩みや苦しみを解決するには、法律や制度をぶち壊していく必要があるのだけど、国は、国民の苦しみに知らん顔をする一方で、苦しみに手を差し伸べようとするベンチャー企業をひどい目に遭わせるわけ。私が戦わなかったら、いったい誰がこの国の多くの人々の悩み、苦しみに手を差し延べてくれるの? そのために誰が戦うわけ?」

1989年、NTTは二重課金制度である「ダイヤルQ2」をスタートさせることになった。いわば原案者である今野さんの元に、NTTの常務が挨拶に来たという。

遠藤正介とのバトルから、20年後のことであった。(後編に続く

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