「チームは監督と選手の信頼関係がすべて」

こうした思いに加え、目の前で泥だらけになって白球を追いかけている少年たちが、ぐんぐん育っていく姿を見守ることにやりがいを覚えていた。再び、前掲書から引用したい。

そんな子どもたちを指導していると、本当に大事なことにいろいろと気づかされる。

わたしの話を聞く彼らの目を見ていると、こちらが発した言葉が彼らの胸に刺さっていくのが顕著にわかるのだ。わたしを信頼し切って疑わない姿がそこにあるといっていいだろう。やはりチームというのは、監督と選手の信頼関係がすべてだとあらためて気づかされたものだ。「プロ野球の原点は、少年野球にあり」である。

「プロ野球の監督よりよっぽど楽しい」

妻でありオーナーでもある沙知代は、この当時の野村の心境を自著『女は賢く 妻は可愛く』(海竜社)で、次のように紹介している。

主人が言うには、たとえば、少年野球なら、まず当人の「野球が好きだ」という気持ちがいちばん大事で、上手・下手というのはその後からついてくる。小学生のときから筋がいい、才能があると言われる子どもよりも、「三度の飯より、何しろ野球が好きだ」という、むしろあまり器用ではない子どものほうが、教える側の楽しみも大きく、指導のし甲斐もあり、結果的にはいい選手に育つものだ、ということです。

あるいは、『女が人生を前向きに生きるための「明日じたく」』(大和書房)では、当時の野村のこんな言葉も紹介している。

「子どもは、ほんま、ええもんやなあ! 教えることを素直に受けとめてくれる。吸収が速いから、教えるたびにどんどんよくなっていく。子どもたちを教えていたほうがプロ野球の監督よりもよっぽど楽しい」

野村はムースでの指導に生きがいを見出していたのだ。