第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、3月21日、日本の3大会ぶり3回目の優勝で幕を閉じた。スポーツライターの広尾晃さんは「優勝の最大の要因は大谷翔平だ。まさかここまで常識外れの活躍をするとは予想できなかった」という――。
MVPの盾を受け取る大谷翔平選手
写真=AFP/時事通信フォト
MVPの盾を受け取る大谷翔平選手

「嘘だろ」といいたくなるドラマだった

第5回WBCは、日本の3回目の優勝で幕を下ろした。

決勝戦の相手は野球の宗主国、アメリカ、最終回には大谷翔平がマウンドに立って、チームメイトでMLB最大のスター、マイク・トラウトを得意のスライダーで三振に切って取った。「嘘だろ」といいたくなるドラマだった。

いろいろなメディアに戦力比較や分析の記事を書いたが、筆者にも常識というものがある。こんな筋書きは、脳裏に浮かんでも書けなかった。こんな筋書きは、荒唐無稽な野球マンガであっても「あり得ない」としてボツになるだろう。

WBCでの日本の優勝はこれで3回目だが、前2回の優勝とはまったく意味が異なる。今回はかつてなく充実した世界大会で、そこでの優勝は非常に価値がある。

これまでのWBCとの違い

2006年、第1回のWBCは、MLBのバド・セリグコミッショナー(当時)が提唱して行われた。WBCの主催はMLBとMLB選手会だったが、日本で開催される1次ラウンドも含めて放映権や広告収入はアメリカの主催者側に入ることになっていて、日本側の取り分は少なかった。

野球好きが多い日本では、テレビの高視聴率が予想され、大きなスポンサーもつくと思われたが、その収益の大半がアメリカにもっていかれることにNPB選手会が強い難色を示した。主催者側が譲歩したこともあり、選手会も折れて参加が決まったが、WBCに対する期待感は必ずしも高くなかった。

第1回大会には、アメリカ代表にもデレク・ジーター、ケン・グリフィーJr.、チッパー・ジョーンズ、ロジャー・クレメンスなどスター選手が参加したが、一方でバリー・ボンズ、ランディ・ジョンソンなどの大物が不参加。選手や球団の温度差を感じさせた。

また、チームとしての練度も低く、アメリカは第1ラウンドを2位で通過したものの、日本も含めた第2ラウンドは1勝2敗で敗退してしまった。

日本は、王貞治監督以下、西武の松坂大輔、巨人の上原浩治、ソフトバンクの松中信彦、中日の福留孝介などNPBのスター選手に加えてマリナーズのイチローも参加。事前合宿も行い、チームとしての一体感を醸成したうえで、宿敵韓国との死闘を超えて優勝した。

日本中が湧いたが、一方でアメリカでは試合中継の視聴率は上がらずファンからは「エキシビション(オープン戦)だろ」という声が上がっていた。