覇権を争う戦いに

チームは例によって当初はまとまりを欠いていたが、準々決勝でベネズエラを相手に大逆転劇を演じてから一気に集中力が増して、日本との決戦に臨むようになった。

アメリカが勝ち進むとともに、WBCに対する現地の注目度も高まり、満を持して日本との決勝に臨んだのだ。

当初、MLB球団にはそれでも、自軍のエース級がWBCで頑張りすぎることに難色を示す幹部がいた。日本が東京ラウンドを全勝で勝ち抜けると、ダルビッシュ有と大谷翔平に関しては「すでにスプリングトレーニング(春のオープン戦)での登板予定が決まっている」として球団側は「アメリカラウンドでは投げないだろう」とコメントした。

しかし、結局2人は決勝戦の8回、9回にマウンドに上がった。WBCの盛り上がりの前に、MLB球団側が折れたと見るべきだろう。

アメリカだけでなく、MLB選手を輩出している北中米諸国の陣容もかつてなく充実した。

メキシコはこれまで、自国リーグでプレーする選手が中心だった。そのために日本はほとんど負けたことがなかったが、準決勝では、先発はエンゼルスで大谷翔平に次ぐ投手のサンドバルが投げ、打線にはバリバリのメジャーリーガーが名を連ね、全く違うチームになっていた。

日本は終盤まで一度もリードを奪うことができず、9回裏に村上宗隆のサヨナラ2ラン二塁打で辛うじて勝利を得ることができたのだ。

これまでの大会と異なり、WBCはアメリカだけでなく各国の「本気度が高い」大会になっていた。そしてアメリカは、本当に覇権を握るために日本と対峙したのだ。

本当の「ワールドシリーズ」に勝利した

1936年、日本の職業野球が誕生したときに実質的な創設者の讀賣新聞、正力松太郎は「日米による決戦」を高らかに歌い上げた。しかし、その時はなかなか来なかった。アメリカは自国のリーグの優勝決定シリーズを「ワールドシリーズ」と言い続けてきた。

いろいろ問題はあるにせよ、今回のWBCは、日本プロ野球が87年間、追いかけてきた真の「日米決戦」だったと見ることもできよう。歴史的意義は非常に大きい。