監督の暴力行為を隠蔽していた東海大菅生
2023年の選抜高等学校野球大会の出場校が1月27日に発表された。今年は95回の記念大会であり、例年の32校より多い36校が選抜された。
この選抜をめぐって大きな話題となったのが、東京地区代表の東海大菅生高校だ。
同校は春の選出は5回目、夏も4回甲子園に出場している。強豪校の一角と言えるが、1月17日に『週刊文春』(1月26日号)が「バットで殴り…東海大菅生監督に暴力常習“告発”」という記事を出し、すでに若林弘泰監督が謹慎していることを報じた。
記事によれば、若林監督の暴力は日常化し、昨年9月には1年生部員が監督の暴力行為がもとで適応障害を起こし、野球部を退部、退学した。それだけではなく、学校側はこの事実を隠蔽し県高野連に報告しなかった。
『週刊文春』の報道後の1月19日に、日本高野連は東海大菅生の暴力事件を日本学生野球協会に上申することを決めた。
選手がセンバツに出ることは問題はない
翌20日に行われた日本学生野球協会緊急審査室会議では、若林監督に2022年12月5日にさかのぼって4カ月の謹慎処分を科した。また報告漏れの責任を指摘して同野球部の部長にも1カ月の謹慎処分を科した。
実は日本学生野球協会の審査室会議は1月18日に通常の会議を行っていた。この時にも東海大菅生の件が議題に上がったが、事実確認にとどまっていた。しかしおそらくは「文春砲」が大きな話題になったこと、さらに東海大菅生が今春のセンバツ高校野球で「当確」になっていたことから、混乱を防ぐために緊急会議をさらに開き、東海大菅生の処分を決めたものと思われる。
ややこしい話だが、『週刊文春』が「謹慎中」と報じたように、実際の処分は事件が発覚した昨年のうちに学校内で決まっていた。すでに若林監督は12月には謹慎で現場を離れていたが、追いかけて処分が発表されたということになる。
若林監督の謹慎処分が発表されたタイミングで、東海大菅生の選手には公式戦出場停止などの処分が科せられないことが確認された。近年は指導者の不祥事に対して「選手が連帯責任を負う」ことはなくなっている。
処分は下され、一件落着のはずが…
筆者はこのコラムの取材で昨年、日本学生野球協会の内藤雅之事務局長に話を聞いた。
内藤氏は「日本高野連と上部組織の日本学生野球協会は『体罰=暴力』という見解であり、これを全面的に否定する」と明言した。
また、暴力など不祥事の「報告漏れ」に対しても謹慎などの処分を科すと言った。
しかしながら野球部監督は、各校に雇用されており、それ以降の処分は学校長などの判断に委ねられている。
「暴力を全面的に否定する指導が、どこまで徹底されるかは難しいところだ」と言った。
東海大菅生の監督、部長の処分は、まさに現状の高校野球の体質を象徴していると言えよう。
しかしながら、この事件はここで一件落着したはずであり、あとは粛々と「選抜出場」へ向けてスケジュールが進行するものと思われた。