部活動の顧問や指導者による生徒への暴力が絶えない。いったいなぜか。スポーツライターの広尾晃さんは「日本の学校が治外法権になっているからだ。一般社会では逮捕されるような指導者の暴力行為も、学校長や理事長の判断で処分が決まるので、罪に問われない」という――。
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写真=iStock.com/gorchittza2012
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生徒に大ケガを負わせても謹慎処分ですんでしまう

兵庫県姫路市の姫路女学院高校で、ソフトボール部顧問の40代男性教諭が、16歳の1年生部員の顔をたたき全治1カ月のケガを負わせたとして、懲戒解雇となった。

男性教諭は今年9月、ユニホームを忘れてきた部員の顔をたたき、「お前なんかいらん」などと暴言を浴びせた。部員は顎関節が外れるなどのケガをしたが、そのまま5時間以上も教諭のそばに立たされていた。

部員は警察に被害届を提出。学校側は男性教諭を当初、謹慎処分にしていたが、約3週間後に懲戒解雇にしたと発表した。部員は精神的ショックが大きく、そのまま退学したという。

筆者はこういう事件が起きると、常に思う。駅や街路など公共の場で、女子高生が中年男性に顔面を顎が外れるほどに殴打されれば、どうなるだろうか?

周囲の人が警察に通報し、加害者は即座に逮捕されるはずだ。勾留されて多くは罪に問われる。その加害者が、サラリーマンや公務員などであれば、おそらくは解雇されるなど社会的制裁も受けるはずだ。

しかし、学校の部活で同様の事件が起こっても、加害教員はすぐに罪に問われることはないし、すぐに解雇されることもない。

学校では「国民の人権」「身体の安全」が保障されない

姫路女学院のケースでは教諭は懲戒解雇となったが、こういうケースでは部員の父母から「嘆願書」が出されることもよくある。

特に全国大会などで実績のあった指導者の場合、熱い期待を寄せる父母から「○○先生は、熱心さのあまり手が飛んだだけで、本当は生徒のことを一番に考えているんです」みたいな声が寄せられることがある。また被害届を出した父母に対しても「事を荒立てるな」と取り下げを迫る父母が出てくることもある。

この事件の場合、女子生徒のケガは重傷で、それ以上に精神的なダメージも大きかったから教諭は解雇されたが、これまでの事例を見ても、暴力行為の程度によっては学校側の裁量で、もっと緩い処分になることがままあるのだ。

日本は民主主義国家で、国民の人権、身体の安全はどこにいても保障されているはずだが、学校があたかも「治外法権」のようになって「暴力を振るっても厳罰に処せられない」ことがしばしばある。この「暴力」に関するダブルスタンダードはかなり問題ではないかと思う。