トランプ前アメリカ大統領が、ビジネス記録の改竄に関する34件の罪状で大統領経験者として史上初めて起訴された。妥当性を巡って激しい論争が起き、アメリカ社会のさらなる分断が憂慮されている。『アメリカは内戦に向かうのか』(バーバラ・ウォルター著)の翻訳を担当したものつくり大学教授の井坂康志さんは「これは対岸の火事ではありません。ウォルター氏の指摘は、日本のSNSの仕掛け人と怒れるフォロワーにもそのまま当てはまるのです」という──。
アメリカは「内戦」に向かうのか
バーバラ・ウォルターが著わした『アメリカは内戦に向かうのか』は、内戦を予期しうるパターンの探索に知的リソースを割いている。
アメリカでは民主党員(青)と共和党員(赤)の価値観も、2004年以来急激に分断されているし、現在に至っては反LGBT、中絶問題、さらにマスク着用ですら暴動が起こっている。本書の説くところと照合すると、現在のトランプ元大統領への訴追などを見る限り、内戦に至るスピードはかえって前倒しされているように見えなくもない。
アメリカはもちろん日本にとって重要な国である。いや、「致命的に」の一語を加えたほうが正確だろう。さらにもう1つ、同書で展開されるアプローチやコンセプトを日本に当てはめて考えてみることで、くっきりと問題の所在が浮かび上がってくる側面もある。
というのも、本書は、もちろんアメリカのみを分析しているわけではない。むしろ、著述全体からすれば、中東、東南アジア、ヨーロッパ、南米などほぼ世界全域をカバーしている。