西尾慧(けい)さん(30歳)は、社内公募制度を使って福岡新宮店に異動した一人だ。大学卒業後に日本企業で営業職として4年働いた後、ワーキングホリデーでカナダに1年半滞在する。帰国後の09年に港北店のイケアレストランでパートタイマーとして働き始め、11年の5月に正社員となった。現在は人事部門で採用を担当する。

通常、店舗立ち上げのテーマで取材をすると、私があれをやった、これもやったと得意気に語る人に出くわすものだ。しかしイケアでは、そうしたタイプを見かけなかった。米国系企業に多い「同僚はライバル」というのでもない。みんな“フレンドリーオーラ”があるのが特徴だった。

「もともと横の風通しのよい社風ですし、過去の実績よりも本当にやりたい意欲があればチャレンジさせてくれます。権威主義の人は見かけません。採用でも、イケアカラーを理解できチームで働けるタイプかどうかを重視します」(西尾さん)

セールスマネジャー
辻 洋平

2005年入社。船橋店を経て、鶴浜店の立ち上げに参加。同店でセールスマネジャーに就任。

イケアカラーといえば、従業員はカジュアルな服装か会社支給のシャツで働く。これは同社ではスーツやネクタイ姿は権威主義の象徴として喜ばれないからだ。

佐藤さんの部署では、休日に従業員同士がお互いの自宅に集まることもある。家具好き同士が、部屋づくりや収納について語り合う。プットリさんは、休日に同僚と一緒に九州観光にも出かけた。

これらのことは一見、学生サークルのノリにも見える。だが辻さんは「小売業ですから学生サークルではありません」と否定する。社業に貢献できないと、年々評価は厳しくなるのだろう。当事者意識を持ち、目標を掲げ、それを実現していくタイプでないと生き残るのはむずかしそうだ。

イケアでは、こまやかな指導よりも本人の気づきを重視する。「今回は、立ち上げの過程で自主的な勉強会を開いたコワーカーもいました。前向きなタイプは将来が楽しみです」(辻さん)。

多くの未経験者がそれぞれの役割を担い、オープンに向けて突き進んでいった。

※すべて雑誌掲載当時

(笹山明浩=撮影)
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