「日本人の住生活が豊かになるなら、たとえイケアに負けても構わない」と似鳥社長は断言する。
イケアとはスウェーデン発祥の世界的な家具チェーン。日本では5店舗を展開するだけだが、北欧流のセンスと低価格とで一部から熱烈な支持を受けている。そのイケアに負けても構わない、と似鳥氏はいう。
「日本の消費者の暮らしを豊かにすること。これが、われわれの会社が存在する目的です。目的が達成するなら、うちがつぶれてもいいと思っています」
08年5月からの「値下げ宣言」のことを思い出してもらいたい。原材料費・輸送費の高騰で商品の値上げが続いている中で、ニトリはあえて値下げを断行した。似鳥氏がこの案を打ち出したとき、役員会は反対一色だったという。だが似鳥氏は、次のような言葉で彼らの心を鷲づかみにした。
「今回は損得抜きでカネを使おう。たしかに原材料や燃料費は上がっているが、統計によると、サラリーマンの収入はここ何年も下がり続けている。別に『値下げしてほしい』といわれているわけじゃないが、数字を見れば明白だ。お客さんは値上げではなく、値下げを望んでいる。だったら、こういうときこそ『恩返し』をするべきだ。うちが赤字になってもいいじゃないか」
ここにはっきりと、ニトリの経営哲学が見て取れる。まず消費者の満足を追求する。会社の利益はその結果ついてくるものであって、先に利益を求めてはならない――。似鳥氏はこれを「ブーメラン効果」と呼ぶ。
「儲けようと考えていたら、お客さんは逃げていきます。店側が『儲けてやろう』と身構えていたら、そんなところには近づきませんよね。逆に買い物をしてお客さんのほうが『儲かった』と思うようでなければいけません。だから、まずは心の中から、『儲けたい』という思いを取り除かなければいけないんです」という心理学である。
日本は高度成長を経て、欧米並みの成熟社会に達したといわれるが、似鳥氏によれば「まだまだ」だ。家具やインテリアに関しては価格が高く、コーディネートのバリエーションも限られている。
「問題は、日本では競争が少ないことです。米国のように競争が激しいと価格が下がり、品質や機能が向上します。続々と新しい商品が出てくるわけです」と似鳥氏は断ずる。
ところで、イケアとの勝負はどうなるだろう。小売業の内実に詳しいプリモリサーチジャパン鈴木孝之代表が比較していう。
「似鳥さんは『日本人の日常生活を豊かにする』という。これは実質的な価値を重視するという意味です。商品の絞り込みも頻繁に行っています。すると効率的ではあるけれど、極端に走れば売り場に面白みがなくなります。その点では品揃えの多いイケアに負けています。価格はニトリのほうが安いので“勝ち”ですが」
※すべて雑誌掲載当時