似鳥社長は長年、アメリカ西海岸で小売業をはじめ経済全般にわたる「定点観測」を続けている。05年、米住宅価格がピークに近づいていると感じた似鳥氏は、大不況の襲来に備え「コストダウンにより余裕資金を1年で50億円確保する」と決意した。実際に用意できたのは42億円(似鳥氏によれば「いまなら60億円以上は可能」)だったが、間接費を中心にこれだけの費用を圧縮できたのは、そもそも原価率が低いからだ。
「うちのメーカー(製造子会社)の利益率は40%。粗利じゃないですよ、営業利益率が40%です。それは木材の95%を無駄なく製品に生かしているからです。だって、すくすく育った木を使うんだからね。まるまる一本使い切ってあげる。それが木に感謝するということじゃないですか」
飄々とした口ぶりで似鳥氏が持論をぶつ。だが、なぜニトリは木材を「まるまる一本」使えるのだろうか。
競合メーカーの家具工場は材料木の95%どころか、5~6割しか使っていないという。それに対して、ニトリの工場では4~5センチ角の端材でも手間をかけて家具材料に再加工する。
「もちろん日本人の世界一高い給料では無理ですよ。でも、あちら(インドネシアやベトナム)は人件費が安いから、手間ひまをかけて端材をつなぎ合わせても利益は出るわけです」(似鳥氏)
人件費の安さを最大限に生かし、原価率を引き下げているのである。
「塗装もそう。スプレーで吹き付けるより手塗りのほうが、手間はかかっても塗料の無駄がありません。塗料代より人件費が安いからそうなります。中国の労働者はいま年収40万円といわれていますが、インドネシアは半分の20万円、ベトナムは10万円ですからね」(同)
人件費だけを比べれば製造業が工場を移すのは当然のように思えるが、現実にはインフラ不足や治安など課題が山積している。ニトリがインドネシアに進出したのは1994年だが、プリモリサーチの鈴木氏によれば「治安が悪いので軍隊と交渉して装甲車を派遣してもらうとか、それこそ修羅場をくぐりぬけてきたうえで今日がある」。
「僕らは戦場で戦っているみたいなものですよ。現地の(子会社)社長はいまでも、寝ているとき以外は、拳銃を持った射撃の名手をそばに置いていますからね」と似鳥氏は真剣な顔をする。
人件費の安い海外で、材料の無駄を最小限におさえながら家具づくりをする。その仕組みをつくり上げるため、ニトリは10年以上の歳月をかけている。だから似鳥氏は、他社が猛烈に追い上げたとしても、ニトリの背中をとらえるまでに「少なくとも10年はかかる」と自信を見せるのである。
※すべて雑誌掲載当時