「他社がアウトソーシングをしているという話を聞くと、似鳥昭雄社長はよく『もったいない』って言い方をするんです」
小売業の内実に詳しいプリモリサーチジャパンの鈴木孝之代表はこう証言する。「もったいない」。これがニトリの自前主義を象徴する言葉である。
かつて日本マクドナルドはFC店を増やさず直営主義で業績を伸ばしていた。創業者の故・藤田田氏にその理由を問うと、藤田氏はニヤリと笑い「こんなに儲かる仕事を、どうして他人にやらせるのか?」と問い返してきた。そう、事業は抱え込むほど「儲かる」のだ。
一般にニトリのビジネスモデルは製造小売業に分類される。しかしニトリ自身は「製造物流小売業」と称している。
自社工場もしくは提携工場にプライベートブランドの商品をつくらせるのが製造小売業だが、ニトリはさらにその先をいく。国内外に物流センターや配送拠点を保有するほか、できあがった商品を輸入する際も、商社の手を借りずに自分たちでコンテナ船を手配する。まさに製造物流小売業なのだ。
「自前主義には苦労がともないます。しかしノウハウが蓄積できるし、コストの合理化もできる」(鈴木氏)
原材料価格の高騰から値上げに走る企業が相次いでいた2008年5月のこと。ニトリは1回目の「値下げ宣言」を打ち出し、268品目を2割近く値下げした。「宣言」は09年8月まで6回続き、2回目以降は各回約400品目の店頭価格を引き下げた。
結果、08年2月から前年同月を下回っていた既存店売上高と来店客数は6月に反転。全社売上高も大きく伸び、09年2月期には22期連続の増収増益を達成した。リーマン・ショックを境に消費が急減、小売り大手の中にもあわてて値下げを模索する動きが出てくるが、ニトリはそれに先んじ、消費者の取り込みに成功したのである。
では「1回あたり10億~15億円」(似鳥社長)という値下げ原資はどこから捻出したのか。鈴木氏が解説する。
「まず用船料の合理化です。これだけで数十億円が浮いたそうです。また物流拠点の倉庫内作業も、ニトリはある程度まで内部化しています。少なくとも神戸の物流センターでは、フォークリフトを使った倉庫内作業を自分たちで手がけています。これによって、運営費を外注に比べて半分に引き下げたといいますね」
内部化によるコスト削減と外注費の引き下げを同時に行ったのだ。仕事を内部化すればコスト構造が明らかになり、外注するときも、相手のコスト構造が丸見えなので値下げの交渉がしやすい。ニトリは自前主義の徹底によって損益分岐点を引き下げ、ライバルを大きく引き離しているのだ。
※すべて雑誌掲載当時