会社を潰すまでの一部始終を赤裸々に語った手記には、オフィスに投資しすぎたために倒産したとの声も寄せられる。企業にとってのムダとは、時代にあった経営とは何か。

会社に快適な空間をつくるのはムダなのか?

安田佳生
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、90年、新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸とした中小企業向けの経営支援会社、ワイキューブを設立。著書も多く、2006年には『千円札は拾うな。』が33万部超のベストセラーとなった。

【安田】私はこれまで、周りからはムダだと思われることを結構やってきました。ただ、ムダかムダではないかの境目はかなり曖昧です。たとえば、家ではちょっと高価なソファを置いた快適な空間があっても許されるのに、ワイキューブという会社でそれをやったら大変なことになりました。会社のなかに快適な空間をつくっても、それが利益に直結するのかという観点で考えればムダなのかもしれません。しかし、その空間があることで社員がリラックスできて、素敵なアイデアがひらめいたり、来社したお客様が喜んでくれるといったことに私は価値があると思っていました。このような発想は企業では成立しにくいものなのでしょうか。

【小阪】突っ込んだ話になりますが、ワイキューブが倒産したのは、ひとつには自己顕示欲からオフィスや福利厚生に投資しすぎたからだという論調があります。しかし、私の意見をいわせてもらえば、ワイキューブがやってきたことと、倒産した事実は切り離して考えるべきです。ワイキューブが倒産したから、ワイキューブがやってきたことはすべてムダだったと結論づけるのは短絡的すぎると思いますね。

安田さんがおやりになってきたことはほんとうにムダだったのか。効率を重視する従来の観点からすれば、ムダだということになるのかもしれません。しかし、職場環境を快適にすることで、3年後のひらめきを生むかもしれないし、それがのちに大きな収益につながるかもしれない。風が吹けば桶屋がもうかる的な因果連鎖は存在するわけで、そういう意味ではムダではなく、必要な投資だったといえると思います。ところが近年は、効率を求めすぎるあまり、時間軸を長めに設定した複雑な因果連鎖をビジネス界が拒絶しているように思えてなりません。