未曾有の新しい消費社会がくる
【安田】戦後、日本人が憧れを抱いたのは、生活を豊かにするクルマやテレビ、冷蔵庫といったわかりやすいものでした。欧米社会に追いつき、追い越せとばかりに物質的な豊かさを求めてきましたが、それがある程度満たされてくると、求めるものが変質してきました。いまは精神的な充足感を求める方向へと変わってきている気がします。
【小阪】いま安田さんがおっしゃったような精神的な充足感を求める消費のことを、私は『「買いたい!」のスイッチを押す方法』という本のなかで、「being(ビーイング)の消費」として紹介しました。beingとは、「自分は何者か」「どう生きるか」ということです。心理学の世界では、ほかにも「having(ハビング)」「doing(ドゥーイング)」という概念があります。havingは「何をもっているか」、doingは「何をしているか」を意味します。人々の関心はまずは所有の実現(=having)に向かい、ついで肩書や学歴、どんな著名店に通っているかなどを充実させる方向(=doing)へ向かった。そして「どう生きるか」(=being)へと大きくシフトしているのが、いまの状況なのです。
この変化は、1980年ごろから急激に起こりました。国民意識調査を見ても、それまでは「ものの豊かさ」と「心の豊かさ」を重視する人の割合は拮抗していましたが、80年を境に心の豊かさを重視する人が急増し、いまでは6割にのぼります。私は大学でも教えていますから、学生と触れ合う機会も多いのですが、彼らは所有や肩書よりも心の豊かさを求めているのを感じますね。