【安田】何をもって心の充足を得るのかを考えてみても、昔はお隣さんよりも大きな家を買うとか、同期よりも先に出世するとか、わかりやすい勝ち負けが基準だったように思います。しかし、いまは充足感の基準は他人との比較ではなく、自分の心のなかにある価値観に軸足が移っていますね。

【小阪】それは私たちの会員企業の現場でも感じています。とくに3.11以降、より多くの人が所有や比較によって自分たちの幸せを測るのではなく、「自分が気持ちよければそれで幸せ」という消費行動に向かっています。先日、主婦向け雑誌「マート」の編集長がこんな話をされていました。「マート」の読者の間では、ある柔軟剤を洗濯機のうえに飾って収納する「飾り見せ収納」が人気だといいます。その飾り具合がかわいらしいので、洗濯機の前に立つたびに幸せな気分になれるというのです。言い換えれば、マイホームをもたなくても、すごい肩書を得なくても、こんなささやかなことで十分に幸せが手に入れられる時代なのです。

さらに、ソーシャルネットワークの進展がこの流れに拍車をかけています。これまでは、自分が気持ちいいと思うことにいまひとつ自信がもてなかった消費者が、ソーシャルネットワークを通じて情報交換を始めたことでマジョリティとなり、その感覚はどんどん加速しています。まさに未曾有の新しい消費社会の到来です。必需や効率を重視してきた従来の枠組みでは到底つかみきれない、「世の中の気分」といってもいいでしょう。この変化はここ30年で急速に起きてしまったのですから、多くの企業が戸惑うのも無理はありません。

(前田はるみ=構成 葛西亜理沙=撮影)
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