問題点3.間引き運転すら行われていなかった
ポイント不転換が解消しない中、駅に入れなくなった列車は次々と駅間で立ち往生した。その中で最も「被害」が大きかったのが山科―京都駅間下り線を走行していた1820M列車だ。この列車には立ち往生した列車の中では最も多い1400人が乗車していた。この列車は19時40分ごろに駅間停車し、動き出したのは9時間50分後の翌朝5時30分だった。
鉄道運行にとって最も避けなければならないのが駅間停車だ。長時間車内に閉じ込められれば乗客が体調不良に陥る可能性があり、乗客が勝手にドアを開けて線路に降りて運転再開がさらに遅れるリスクもある。そして乗客を降車させる場合、停止個所によっては多数の乗客を1キロ以上も徒歩で避難誘導することになり、混乱は必至だ。
そのため災害時は周辺の安全を確認した上で、徐行で最寄り駅まで走行するなど、できる限り駅から避難することを基本とする。その中で駅の数に対して列車本数が多すぎると駅に入れない列車が生じるため、災害で遅延・運転見合わせが予測される場合は、いわゆる間引き運転を実施する。あるいは100%の間引き、すなわち計画運休に踏み切る。
そのパイオニアがJR西日本だったはずだが、この日は間引き運転すら行われていなかった。長谷川社長は「重大な輸送障害の発生が予想される場面で、最悪の事態を想定した判断ができなかった」と反省の弁を述べる。
想定するきっかけはいくつもあったはず
だが「想定外」を想定するきっかけはいくつもあったはずだ。例えば計画運休導入の契機となった2015年の台風11号では、7月17日夜から18日午後まで運転再開できない状況となり、長時間にわたる駅間停車が多発。乗客が救急搬送する事態となった。
また2018年6月18日に発生した大阪府北部地震では、朝ラッシュ時間帯に発生したことで153本の列車が駅間停車し、多数の乗客が長時間車内に閉じ込められた。国土交通省が翌年10月に取りまとめた駅間停車対応策には「列車の走行中に、トラブルや自然災害等によって列車が駅間停車した場合、乗客の安全確保を最優先としなければならない」と記している。
直接の原因は異なるが大雪で大規模な駅間停車が発生した事例もある。1998年1月8日夜、東京都心で9センチの降雪があり、JR東海道線、JR総武線でパンタグラフ故障とそれに伴う架線溶断が発生した。多数の列車が駅間停車し大混乱を招いた反省から、JR東日本は降雪時に大胆な間引き運転を行うようになった。
JR西日本は確かに台風時の計画運休に先鞭をつけた。また大阪府北部地震の反省として、駅間停車した列車のうち駅に移動可能な列車を特定し、避難を容易にするシステムを導入した。それなのになぜ大雪で駅間停車が生じることを想像できなかったのか。