コロナ対策はどこまで厳重に行うべきなのか。コロナ前まで4人家族だった45歳の女性は、家族に行き過ぎたコロナ対策を求めた結果、一家離散を招くことになった。一体なにがあったのか。ライターで編集者の沢木文さんが書いた『沼にはまる人々』(ポプラ新書)より紹介しよう――。(第3回)

※本稿は、沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

コロナウイルスの背景に顔を覆う女性
写真=iStock.com/SvetaZi
※写真はイメージです

正義を振りかざす「コロナ警察」

人々の生活様式が一変したコロナ禍では、さまざまな沼が生まれた。マスクなしでは生きられない、素顔を見せられない例もそのひとつだ。そして、「コロナ警察」。ステイホームを声高に叫び、そうしていない人をSNS上で悪者扱いする。

古くは第2次世界大戦中や、2011年東日本大震災直後に広がったデマなどで、「これが絶対に正しい」と言うことの多くは、時間の経過とともにそうではないことがわかってくる。それにもかかわらず、ある種の人は、正義を振りかざして、それに合致していない人を戒めてしまう。その行為には、ヒーローになったかのような快感があることが想像できる。

コロナ禍はSNSが発達していたこともあり、この正義を振りかざす人が多かった。「この人、後で何を思うんだろうな」と考えて、コロナの危機を煽る知人の名前を簡単な内容とともに、手帳にメモしていた。感染が落ち着くと、そのほぼ全員がいち早く、海外旅行に行ったり、外食をしたりしていた。SNS上ならいいが、実際に事件も起こった。

2020年、最初の緊急事態宣言解除直後、60代の男性が、20代の男に「マスクを着けろ」と注意した。これに腹を立てた男は、60代の男性に暴行。首の骨を折るなどの重傷を負わせた。男性は頸椎を損傷し、下半身不随になってしまったという。傷害罪に問われた男は、神戸地裁で懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を受ける。お互いに未来に影を落としてしまったという痛ましい事件だ。コロナ禍では正義感や義俠心ぎきょうしんから、さまざまな沼が発生した。

3人の子供をもつ里美さん(45歳)は、コロナを恐れるあまり、過剰に行動をしてしまい、一家離散の状態になってしまった。