「お前は本当にバカだったんだな」

子供からは慕われていたと思っていた。しかし、娘から「ママはもう、死ねばいい」と言われたことがあった。それは、娘を小学校の卒業式に出席させなかったこと。

「忘れもしない3月18日。娘が通う公立小学校で卒業式が行われたのです。卒業式なんてクラスターの発生源。こんな非常時に卒業式をするなんて、非常識だと思いました。学校に抗議をしたのですが、『大切な節目ですから』と言うだけで、決行した。でも怖いので、ウチは欠席させることにしたのです。娘は大暴れしました。『どうしても出たい』と言ったのですが、私は娘の命を守るために、心を鬼にして、家から出さないようにしたのです」

娘は父親に母親の行状を訴えた。

「殴られると覚悟の上で、荒れ狂う娘を出席させないために頑張りました。そしたら、夫は『お前は本当にバカだったんだな』と呆れたような顔をしている。娘には『荷物をまとめろ』と言うと、娘はトランクケースを部屋から出してきた。その足で娘は夫の実家に行きました」

娘は埼玉にある夫の実家で春休みを過ごす。そのうちに息子も「僕も行きたい」と行ってしまった。

「あんなに愛してあげたのに、裏切られた気分です。夫がその後、話し合いの場を設け、『冷静になろう』と。『コロナになったからといって死なない』などと言ってきたんですが、もはやそういう問題ではなく、家族の信頼が損なわれたということです」

結局、離婚してマンションも売却。子供たちは「ママはイヤだ」と言い、祖父母の家で暮らすことになった。

「ここにいる人を殴るボランティアをしたい」

里美さんの投稿を振り返ると、なかなかの徹底ぶりがうかがえる。買い物は2週間に1回。買ってきたものは次亜塩素酸ナトリウムかアルコールで消毒する。それができないものは、5日間ベランダの外に放置する。投稿には夫への不満が吐き出されている。

沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)
沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)

「決死の覚悟で調達した食材を、夫が豚のように意地汚く食べている」などという投稿もあった。また、都内の商店街に人が密集しているという報道写真について、「日本人はホントにバカになってしまった。ここにいる人を殴るボランティアをしたい」と書いてあった。

里美さんは「こんなこと、書いていたんですか……」と絶句していた。熱に浮かされていると、周りが見えなくなる。この取材が終わった後、全ての投稿を削除した。コロナ禍は正気を失ってしまった人が多い。

「どうせ死ぬから」と、セルフネグレクトをしはじめて、風呂にも入らず汚部屋になってしまった人、デリバリーの食べ物を過度に頼んでは食べ続けて30キロほど太ってしまった人、飲食店への義侠心に駆られて、借金をしてまで飲食を続けてしまった人など多々ある。緊急事態に発動する沼。それにどう反応するかが、今後の人生を左右する。

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