稲田氏は12日、防衛財源について「安定財源である必要がある。1兆円について国民に薄く広く、税の負担のお願いを検討する首相の方針は正しいと思う」と首相官邸で記者団に語った。清和会の大勢に反して「増税支持」「岸田支持」と姿勢を鮮明にした。高市氏と反目するポジションを取ったのだ。

稲田氏は同日、自らが会長を務める自民党「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」の仲間を引き連れて官邸を訪れ、岸田首相に最新型原子炉の新増設などを求める決議文を手渡した。

この一行のなかには安倍氏の後押しで衆院比例中国ブロックで当選を重ねたものの、差別発言などを繰り返して国会で追及された杉田水脈・総務政務官の姿もあった。

曇天の国会議事堂
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岸田首相に接近する稲田氏

稲田氏は官邸で「私が(2016年~17年に)防衛相をやっているときに比べ、自衛隊員は数段厳しい状況の中で命をかけて国を守ろうとしている。(防衛費増額の)意義を国民全体で考えていくことは重要だ」と強調した。

防衛相経験者として防衛財源を確保する増税を支持し、原発のある福井県選出議員として原発推進の旗を振る。稲田氏は「防衛」と「原発」という政治基盤を固めつつ、窮地に立った岸田首相にあえて接近して存在感アップを狙っているとみていい。

稲田氏を政調会長や防衛相に抜擢し、野田聖子氏や高市氏に続く次世代の女性政治家として引き立てたのは、安倍氏である。右派言論界の安倍支持層からも強く支持され、一時は「安倍氏の秘蔵っ子」ともてはやされた。

ところが稲田氏がジェンダー平等の問題に取り組み始めると、安倍氏は冷淡に接するようになり、稲田氏に代わって高市氏を重用しはじめたのである。

稲田氏は総裁選出馬に意欲をにじませたこともあったが、安倍氏の後ろ盾を失い、存在感を失っていた。高市氏が21年秋の総裁選に安倍氏の全面支持を受けて出馬し、安倍支持層の熱狂的支持を集めたのは、稲田氏の凋落があったからにほかならない。

自民党関係者は「高市氏の政治キャリアは稲田氏よりはるかに長い。高市氏は旧新進党から自民党に転じて以来、安倍氏の政治信条にあわせ、安倍氏に付き従ってきた。清和会を離れたのも、安倍氏が2011年総裁選で当時の清和会会長だった町村信孝元官房長官に従わずに出馬した際、安倍氏を支持するためだった。それでも安倍氏は格下の稲田氏を重用してきたが、じっと我慢し、安倍氏の庇護が自分に向く機会を待った。稲田氏がジェンダー平等で安倍氏ににらまれて突き放され、ついに出番が回ってきた」と解説する。