法律の網目をかいくぐる巧妙な仕組み

一方、組織の根幹は独立前と変わっていない。末端構成員は購入者勧誘の連鎖で規模の拡大を狙う。外形上はマルチ商法だ。取り扱っている商品も、同じ美容用品だ。しかし、複数の組織関係者が「かなり巧妙な仕組み」と証言する。

構成員は、師匠になるために美容用品を毎月15万円分購入しながら、購入してくれる友達作りに励む。購入先は、小売店を装う師匠の店だ。「構成員には店で扱っているIの会社の商品を買わせている。外から見れば、一般客が店で購入しているのと区別できない」という。

白い背景に分離された化粧品製品
写真=iStock.com/forest_strider
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美容用品の販売日は毎月決まっており、師匠から構成員に対し事前に「予約メール」が届く。ただ、このメールで購入を申し込むと特商法の「通信販売」に当たり、規制の対象となる。そこで、メールでは「店にあなたのための商品を取り置いてある」という形をとり、構成員は店で15万円を現金払いする。

客に「あの商品を取っておいて」と依頼されて対応することは、店としてごく一般的だ。それぞれの師匠が店を営んでいるため、マルチ商法と指摘を受けることはない。Iの会社の美容用品は市販もする。各店舗では一般の商品も取り扱い、表向きは小売店と変わらない。

2018年3月、マルチ商法企業からの移行について、幹部をホテルに集めて説明した。組織関係者は「実態はこれまでやってきたマルチと変わらない。なのに、特商法の制約を受けない。「最強のマルチが完成した」と驚いた」と振り返る。

“9系列50人”を達成すると出店が許されるが…

順調に船出した事業家集団も4年が経過し、師匠や構成員の離脱が相次ぐようになった。駅前など街中で「いい居酒屋知らない?」と声をかけ、美容用品を毎月15万円分購入する友達を9人勧誘する。さらに9人がその下に一人当たり5~6人の構成員を抱える「9系列50人」を達成する。するとようやく、師匠に昇進して店を出すことを許されるとみられる。

マルチ商法では勧誘に成功すると「紹介料」などの名目で現金をもらえるのが一般的だが、事業家集団はIの会社の美容用品購入にしか利用できないポイントで還元されるにとどまる。15万円分の商品購入は毎月のノルマだ。しかし、支払えなくなる構成員もいる。店舗の家賃や人件費などの固定費負担も重い。組織関係者は「仕入れ量が減るのを避けるため、2、3人分は自分で買うこともあった」と明かした。

また、どの程度仕入れると卸値が安くなるかは、師匠にも知らされない。しかも仕組みがたびたび変更されるため、利益率のめどが立たないという。