国内のイスラム教徒は日本人を含め20万人以上

現在、日本に在住する外国人ムスリムは16万人以上、日本人ムスリムが4万人以上といわれている。国別ではインドネシア、バングラデシュ、マレーシア、イラン、トルコ、エジプトなどさまざまだ。日本におけるムスリム人口は今後、年に10%ほどの割合で増えていくとの試算もある。

大分県でもムスリムが増加傾向にある。技能実習生の受け入れ先は農業、漁業関連のほか、自動車やアパレルの工場など。ムスリムは貴重な労働力になっており、地域経済を支えている。

また大分県には、学生・教員ともに半数が外国籍という立命館アジア太平洋大学(APU)がある。大学関係だけでも数百人のムスリムがいるといわれる。

ところが、死後の受け皿がまったく整っていない。現在、わが国におけるムスリムが埋葬できる土葬墓地は北海道、茨城県や埼玉県、山梨県など東日本に7カ所、西日本では京都府と和歌山県、兵庫県、広島県に3カ所あるだけだ。九州にはひとつもない。

関西では15年ほど前までは土葬が普通に行われていた。
滋賀県甲賀市で筆者撮影
関西では15年ほど前までは土葬が普通に行われていた。

そのため、九州や四国在住のムスリムが亡くなった場合は、何百キロも離れた埋葬地(あるいは本国)へ遺体を運搬する必要がでてくる。その費用は数百万円単位になり、その後の墓参にかかる旅費などもバカにならない。墓の問題を抱える日本で、ムスリムは安心して死ねないのだ。

そんな状況に救いの手を差し伸べたのが、カトリック別府教会だった。

地元ムスリムに対し、好意で土葬墓地を提供してきた。先述のようにキリスト教、とりわけカトリックは原則的には土葬である。そこで、別府教会が所有する神父用の土葬墓地や、大分トラピスト修道院の土葬墓の一画を提供した。しかし、その区画数はわずか。あくまでも急場しのぎであり、すぐに埋まってしまうことが予想された。

そこで、別府ムスリム協会はムスリム専用の土葬用地の整備を決意。日出町の民有地を購入したのが2018年のことだった。そこでは100区画ほどの整備を予定していた。

同時に、住民説明会も繰り返し開かれた。ちなみに土葬は墓地埋葬法では禁止していない。地元の条例にも適合しているため、町長の許可があれば土葬墓地設置が可能になる。

しかし、地元住民らが反発した。

町長や町議会にたいして土葬反対の陳情書を提出。反対の理由は①飲料水を湧水で賄っているので、水質汚染が心配②米、肉、野菜、卵など地元農作物への風評被害につながる③土葬墓の少ない西日本全域から土葬を求めて多くのムスリムがやってくることになり、土葬墓がどんどん増設されていくのではないか――などだった。

それにたいして、ムスリム協会側は反論した。水質汚染に関しては、土葬予定地から水源地まで2kmも離れている。また、ほかの地域の土葬墓周辺では水質の問題が起きた事例はない。風評被害についても、土葬予定地の隣接地にはトラピスト修道院の土葬墓があって、これまで風評被害は出たことがない。土葬開設後の埋葬者も年間2~3人程度と見込んでいる――などと主張した。

日出町議会は住民の反対の陳情書にたいし、賛成多数で採択。そこで、折衷案として土葬候補地を別の場所の町有地に移した。住民の事前協議も終え、いよいよ正式に申請すれば町が許可を出し、土葬墓地整備に取り掛かれるとみられていた。

しかし、今度は新候補地に隣接する杵築市の住民が怒り出した。「寝耳に水」として、反対の陳述書を市に提出する。そして議会が採択し、事態は完全に膠着状態になった。候補地のたらい回しの様相を呈してきた。