「ZARD」の坂井泉水(享年40)、忌野清志郎(同58)、美空ひばり(同52)、石原裕次郎(同52)、田中角栄(同75)……多くの著名人の葬式会場となった都立青山葬儀所は2021年3月に解体され2025年に新施設が完成予定だ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「著名人の弔いも簡素化しアフターコロナにおける葬送の規模感が見えにくいが、同所は葬送文化を牽引する存在だけに、各界からさまざまな要望が出ている」という――。
東京都青山葬儀所(2019年4月20日)
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弔われる側も弔う側もVIPだった「青山葬儀所」

数多あまたの著名人の葬式会場になってきた都立青山葬儀所が、全面建て替えを計画している。すでに葬儀所は解体を終えており、約3年後の2025(令和7)年には新施設に生まれ変わる見通し。同時に、悩ましい課題も抱えている。「家族葬」が一般化する中で、著名人の弔いですら簡素になってきている。また、「アフターコロナ」における葬送の規模感が見えにくくなっている。青山葬儀所は、どのように生まれ変わるのか。葬送文化のバロメーター的な存在だけに、リニューアル後の姿を業界は注視している。

青山葬儀所は施設の老朽化のため、2021(令和3)年3月末にひっそりと閉鎖していた。東京都建設局公園緑地部などによると、壁や柱にヒビが入り、床の沈下も起きていたという。大規模修繕も考えられたが、全面的に建て替えられることに。迎賓館を思わせる瀟酒な建物は解体され、現在は更地になっている。

青山葬儀所の歴史は古い。開所は1901(明治34)年だ。最初は民間の葬儀所だったが、旧東京市に寄贈された。都内にある公営葬儀所にはほかにも、江戸川区の瑞江葬儀所がある。ちなみに瑞江葬儀所は火葬施設だ。対して青山葬儀所は、葬儀の式典などを行う専用の施設であり、火葬の設備はない。

青山葬儀所は六本木や青山一丁目からも近く、閑静な都立青山霊園に面している。敷地面積はおよそ3000坪。1974(昭和49)年には大規模改修が行われ、延べ床面積2350平方メートルを有する巨大斎場となった。参列者数万人規模の葬式も執り行われていた。青山葬儀所では、弔われるほうも弔う側もVIPであることが少なくない。

枯山水の中庭を取り囲む回廊を抜けると、コンサートホールのような式場へと誘われる。焼香や献花を済ませると、そのまま広い車寄せへと流れていく。多くのメディアの取材にも対応でき、ホテルでのお別れの会とは違って他の宿泊客や近隣住民に迷惑をかけることもなかった。

青山葬儀所では、1日1組限定で受け入れていた。通夜を入れれば1組あたり2日間程度を要する。そのため、年間の利用数はさほど多くはない。とてもぜいたくな斎場であったことがうかがえる。

そんな稀有な斎場は、著名人の葬式において重宝されてきた。バブル期、大規模な葬式がもてはやされると芸能人や政治家の告別式、企業幹部が社葬を行う会場として、真っ先に候補に挙がる存在になった。新聞の訃報欄では、常に青山葬儀所の名前がみられた。

これまでどのような著名人が、ここで送られてきたのか。その規模感とともにみていきたい。