石原裕次郎、美空ひばり、忌野清志郎、坂井泉水、西城秀樹、田中角栄、小渕恵三…
1987(昭和62)年8月、トップスターの石原裕次郎氏(享年52)の葬式が行われた。屋外には大型モニターが設置され、約3万5000人のファンが長蛇の列をつくった。
続いて、1989(平成元)年7月には歌手の美空ひばり氏(52)のお別れの会が執り行われた。参列者約4万2000人を集めた。その様子はTBSが独占放送し、大きな話題になった。
参列者数が飛び抜けて多かったのが2007(平成19)年6月の、「ZARD」で知られる歌手坂井泉水氏(享年40)の式だ。なんと6万人(推定)を集めたといわれる。
2009(平成21)年5月のロック歌手の忌野清志郎氏(享年58)の告別式も4万人に上った。近年では2018(平成30)年5月、歌手の西城秀樹氏(享年63)の式が1万人を集めた。2020(令和2)年3月には、プロ野球監督を務めた野村克也氏(享年84)の葬式がここで予定されていたが、コロナウイルス感染症の流行によって延期になった(翌年、神宮球場でしのぶ会を実施)。
歴代首相の葬儀が青山葬儀所で行われることも、しばしばだった。1993(平成5)年12月には田中角栄元首相(享年75)の自民党・田中家合同葬が開かれ、4000人の参列者を数えた。
2000(平成12)年に急死した小渕恵三元首相(享年62)の密葬には4500人が参列。2007(平成19)年には宮澤喜一元首相(享年87)の密葬(参列者1500人)が、2017(平成29)年には羽田孜元首相(享年82)の民進党(当時)と羽田家の合同葬(2000人)が行われた。
安倍晋三元首相(享年67)の密葬は増上寺で行われたが、建て替えがなければ青山葬儀所で行われていたかもしれない。
しばしば著名人の葬式で注目を集めた青山葬儀所。だが、利用数は1990年代以降、下がり続けていた。その背景には施設の老朽化や、「お別れの会(偲ぶ会)」の広がり、さらには大型寺院など競合施設と比べて高額な利用料金などがあった。
これまで、逝去後は近日中に通夜・葬儀が行われていたが、お別れの会では日程を決め、しっかりと準備を整えて実施することができるメリットがある。青山葬儀所では、利用数のおよそ7割がお別れの会で占められる年度もあった。一方でお別れの会は、会場の選択肢を広げることにもなった。青山葬儀所以外でも、ホテルの大宴会場が利用されるようになった。
建設から半世紀が経っていた老舗斎場だけに、設備の古さは最大のネックだった。以前のトイレは和式。会場の椅子は固定されており、空間の汎用性は低かった。待ち合いもレンタルのテントを張って対応しており、夏場や冬場の葬式は参列者を苦しめた。その割に利用料金は高く、8時間あたり84万円と、他の民間斎場と比べるとかなりの高額だった。
2000年代に入り、年間の利用はわずか30件台に激減。これでは通夜を含めても、1年間365日のうち300日以上は稼働していないことになる。