世界一の火葬大国・日本で今「土葬」が話題になる理由
九州のある町で、ムスリム(イスラム教徒)の土葬墓地設置を巡って混乱が続いている。
在日ムスリムにとって、土葬墓の整備は切実な問題だ。だが、地元住民から「地下水が汚染される」「農作物への風評被害が起きる」などと反発の声が上がり、計画は暗礁に乗り上げた。土葬墓整備について、国や行政の腰は重い。そんななかでムスリムの「救世主」になっているのが、宗旨の異なる仏教寺院やキリスト教教会だ。
土葬墓地の候補に挙がっているのは大分県日出町。国東半島の南端部に位置し、別府市にも隣接する風光明媚な立地である。土葬墓地整備の話が持ち上がったのが2018年。宗教法人別府ムスリム協会(カーン・ムハマド・タヒル・アバス代表、立命館アジア太平洋大学教授)が、大分県日出町の山中に土葬墓用地約8000平方メートルを取得したことに始まる。
聖典コーランでは「死後の復活」が約束されている。復活のためには肉体が必要となる。そのため、ムスリムの埋葬は、絶対的に土葬なのだ。
キリスト教も同様に、死後の復活を認めており、原則的には土葬でなければならない。だが、近年はプロテスタントを中心に火葬を容認する傾向にある。欧米の教会ではコロナ禍によって、衛生に対する意識が高まり、火葬するキリスト教信者の割合が増えてきている。
たいして、日本人の多くが信仰する仏教の葬送は、火葬だ。これは、古代インドにおける釈迦がその死後、火葬されたことを準拠にしている。現在、日本の火葬率は世界一高い99.99%。そこには宗教上の理由がある。
一方で日本人の、もうひとつの宗旨である神道の葬送法は土葬だ。江戸時代までの日本は神仏混淆状態で葬送も火葬と土葬が混在していたが、明治維新時の神仏分離令によって完全土葬に切り替わった。例えば、都立青山霊園や雑司ヶ谷霊園、谷中霊園などは神葬祭の土葬墓地として整備された経緯がある。
しかし、土葬用地の不足や衛生上の問題が生じ、すぐに火葬が容認された。そして、各地に火葬場が建立された結果、日本は火葬大国になったのだ。そうした流れの中で土葬はどんどん消滅していった。現在、伝統的な土葬習俗が残るのは滋賀や奈良、京都南部、三重など関西を中心にごくわずか(年間100体から200体ほど)。特殊な例として、死胎(水子)を土葬する地域がある。
そのほかの土葬は、本稿の主題である「日本在住のムスリムが亡くなった場合」である。たとえば日本人と外国人のムスリムが国際結婚をし、日本で暮らして亡くなるケース。また、外国人技能実習生や、留学生が国内で病気や事故などで亡くなる場合。さらに日本で死産したケースなど、さまざまである。