外国人労働者の「ゆりかご・墓場」の整備は行政の責任

本来、信仰に基づく墓地の整備は、技能実習生らを受け入れている地域や行政の責任だ。現状では、ムスリムの人権や、信教の自由が侵害されている状態だ。大分だけではない。日本は将来的には外国人労働者に頼らざるを得ない状況になる。「ゆりかごから墓場まで」整備して迎えることは、人道上当然だと思う。

そんな中、ムスリム墓地の整備に理解を示し、奮闘しているのが曹洞宗の善隆寺の住職、自覚大道さんだ。自覚さんは曹洞宗の国際的ボランティア団体(シャンティ国際ボランティア会)の元職員で、ムスリムと一緒に活動した経験をもつ理解者だ。「多文化共生」を提唱し、自坊でイスラム講座を開いたこともあるほどだ。

「ムスリムは善良な人ばかり。仏教界を含め、多くの日本人に彼らのことを知ってもらいたいと思いました。しかし、特に地方都市のムラ社会の中では、なかなか理解が深まらないのが現状です」(自覚さん)

自覚さんは2021年6月、別府ムスリム協会のアバス代表や大分トラピスト修道院の院長らと厚生労働省を訪れて、信仰に基づいた埋葬が可能な「多文化共生公営墓地」の設置を求めた陳情書を提出する。土葬墓地を各都道府県に設置したり、既存の公営墓地内に土葬エリアを設けたりするなどの措置を求めた。

大分県だけではなく、日本各地では土葬にたいするアレルギーは強い。水質汚染や風評被害の心配が解消されたとしても、土葬という生々しい埋葬法が、火葬大国の日本では心理的に受け入れ難いものになっているのだ。火葬場の新設が困難であるのと似ている。

イスラム教徒の女性手差す近隣の墓
写真=iStock.com/HAYKIRDI
※写真はイメージです

自覚さんだけではない。各地のムスリムの土葬墓地の整備を主導しているのが仏教寺院である。山梨県甲州市塩山にある「イスラム霊園」は曹洞宗の文殊院という寺院境内にある。先代住職がムスリムに理解があり、半世紀前にムスリム専用墓地を整備した。

また、今年に入って土葬のエリアを設けたのが、京都市南山城村の高麗寺だ。高麗寺は山間部に5万坪の敷地を有する禅宗寺院だ。その一角に土葬墓地がある。ムスリム以外にもキリスト教徒や儒教など、土葬率の高い宗教も受け入れている。同一区画に同一宗教の人のみを埋葬している。

奈良県や三重県にも近いこの地域の埋葬法といえば、15年ほど前までは土葬がほぼすべてだった。そのため土葬墓地整備に関しても、地域の理解が得やすかったという。土葬墓の設置を巡って紆余曲折がある中、宗教を超えてキリスト教、仏教が連携しムスリムの人を助けようとする精神に、救われた気がした。

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