安倍元首相の国葬での菅前首相の弔辞に感動した人は少なくない。だが、違和感を覚え危機感を募らせている人々もいる。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「菅さんは『天に召された』『天国の』といった表現を使いましたが、旧統一教会も死後世界を『天国』と表現しているため、『安倍さんは旧統一教会側の人間であった』という既成事実を与えてしまいかねない」という――。
新聞の見出しには「国葬」の文字が躍る
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

「○○さん天国に」相次ぐ訃報の報じ方はこれでよいか

このところ、著名人の訃報が続いている。今年になって安倍晋三元首相(享年67)や京セラ創業者の稲盛和夫氏(90)、落語家の三遊亭円楽氏(72)、さらにはアントニオ猪木氏(79)が続いた。

スポーツ新聞やテレビワイドショーでは「◯◯さん、天国に」などという表現で、その死を報じている。しかし、この「天国」という言葉の定着に、仏教界が危機感を募らせている。

「天国」は、主にキリスト教用語であり、仏教の死後世界観では「浄土」もしくは「極楽」などであるからだ。本稿では、近年の訃報を基に議論を進めていこうと思う。

「天はなぜ、よりにもよって、このような悲劇を現実にし、いのちを失ってはならない人から、生命を、召し上げてしまったのか」

日本武道館で9月27日に執り行われた安倍晋三元首相の国葬。友人代表として弔辞の場に立った菅義偉元官房長官は、安倍氏の遺影に向かってこう語りかけた。菅氏の弔辞は、安倍氏との具体的なエピソードを交えた内容のもので、多くの国民の心に響いた。

また、安倍氏逝去直後に、国葬に先立って増上寺で行われた密葬では、麻生太郎元首相がこのように弔辞を述べていた。

「外交についてセンスと胆力で、国際社会での日本の存在を高めた。戦後最もすぐれた政治家だ。天国で(安倍氏の父)晋太郎さんに、胸を張ってやってきたことを報告すればいい」

麻生氏はクリスチャンだ。キリスト教では、死後世界を「天国=heaven」と表現しているから、それに倣ったのだろう。

菅氏や麻生氏の弔辞に多くの人は自然と、耳を傾けていたはずである。しかし、仏教者の多くが、そこはかとなく違和感を覚えていたのは間違いない。仏教では死後世界を「浄土(きよらかな仏の国土)」「極楽(阿弥陀仏の浄土)」などと呼んでいるからだ。