筆者は「スナク首相・モーダント副首相・ハント財務相」の現実的中道内閣を期待する。2016年のEU国民投票以来、振り回されてきた狂信的リバタリアンたちは筆者の目には漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる西洋妖怪軍団のように不気味に映る。再国有化で英国の資本主義にとどめを刺そうとした最大野党・労働党の強硬左派も危険だが、狂信者はもっと危険だ。

日本は経常黒字が債務危機の防波堤

トラス氏の仕事ぶりについて世論調査会社ユーガブの調査に71%が「ダメ」と答え、「良い」と回答したのはわずか11%だった。政党支持率は労働党が最大36ポイントも保守党を突き放す。

英選挙予測サイト「エレクトラル・カリキュラス」によると、いま解散・総選挙になれば労働党507議席、スコットランド民族党(SNP)52議席、保守党48議席、自由民主党19議席と、300年を超える歴史を誇る保守党は議会第3党に文字通り「転落死」する。現実的中道派の「スナク内閣」が誕生しても、この流れを大きく変えるのは難しいだろう。

英国政治に精通する英キングス・カレッジ・ロンドンのバーノン・ボグダナー研究教授は英BBC放送でこう警告した。「エネルギー危機やウクライナ戦争、コロナのせいでトラスが存在しなかったとしても生活水準は低下せざるを得ない。今すべての問題をトラスのせいにしている。実際、彼女が悪化させたのだが、それがなくても私たちは危機に直面している」

国際通貨基金(IMF)によると、国内総生産(GDP)比の政府債務残高は今年、英国87%、米国122%、日本264%。経常収支は英国マイナス4.8%、米国マイナス3.9%、日本1.4%。来年の成長率は英国0.3%、米国1%、日本1.6%(いずれも推定)だ。日米に比べて財政は健全なはずの英国が債務危機に陥ったのは経常収支が赤字だからだ。

米国は基軸通貨ドルを持ち、日本は経常黒字が債務危機の防波堤になっている。将来、日本は、高齢者が退職金や貯金を取り崩して経常赤字に転落すれば、現在のように日銀が国債を買い入れて金利を抑え、政府の借り入れコストを小さくすることができなくなる。その時、日本も英国と同じように緊縮財政という地獄の苦しみを味わうことになる。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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