日本で「一括採用」が主流である理由

働く側もいくつもの職務に従事し、一つの仕事だけではなく、前後左右の仕事を覚えることによって視野がひろがり、面白さや他者のやり方から学んだりするのが当たり前の方法である。

それゆえ、若者の学校の卒業期(おもに銘柄大学)に、一括採用を中心とする大企業の採用習慣を「転換」すべきだと叫ばれても、変化の兆しはほとんど見えない。もちろん銘柄大学中心の新卒の採用方法には批判がある。だが、学校歴を消去して試験をしても、論文もその他ペーパーテストも、またディスカッションをしても、成績が良いのは銘柄大学になってしまうのが実際だ。

とはいえ、もともと雇用全体の70パーセントを占める中小企業では、私の調査では、ものづくりの関連労組のJAMなどは、組合員の半数以上が中途採用者である。新卒の採用よりも、転職者の採用のほうが多く、とくに、20人、30人規模の会社はほとんどの人間が中途採用である。新卒で入社し、定年退職までずっと勤務している者は稀といってもよい。しかし何回かの転職は、職種が異なっても、人間関係管理や新しい仕事を覚える楽しさ、あるいは辛さなどを経験して自らを成長させるものである。

中沢孝夫『働くことの意味』(夕日書房)
中沢孝夫『働くことの意味』(夕日書房)

また20年、30年と働いていると、職場の全体、取引関係、これからの半年とか1年といった先の仕事の見通しが見えてくることがあるが、それがおそらく「転機」となってくる。十分な思考を働かせ、チャレンジする意欲が沸く場合はよいのだが、場合によっては、この仕事に積極的な意味があるのかというネガティブな気分に陥ることがある。

ただ、繰り返して言うが、正規雇用の公務員などを除くと、長期雇用(採用から退職まで)の職場のほうが少数派なのが実態だ。たとえ大企業であっても、中途退職が強いられる場面はいつでも見られる。それは年齢とは無関係である場合がしばしばであると言ってよい。むろん年金制度の変化や、一般的な健康年齢の長期化により、法を背景とした定年の延長はあるとしても、一部で叫ばれている「40歳定年」が制度化される可能性はないと言ってさしつかえなかろう。

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