どうすれば「おしゃれな家」に住めるのか。リビングハウスの北村甲介社長は「必要なのはお金ではない。高級家具の配送で1000軒の家を回ったが、お金持ちの人でも9割の家は垢抜けなかった。なぜなら家具を買うときに『調和』を考慮していないからだ」という――。
リビングハウスの北村甲介社長
撮影=小倉和徳
リビングハウスの北村甲介社長

「家具屋3代目」修行先で任されたのは配送だった

ぼくは24歳の頃、ある北欧系の家具メーカーで働いていました。家業を継いで家具屋になることを決心したぼくに、「まずは修行」と父が紹介してくれたのがこの会社だったのです。

「修行」と言っても、任されたのは販売でも買い付けでもなく、配送の仕事でした。来る日も来る日も、2トントラックを運転し、ひたすら家具を運び続けます。組み立て式の家具が多かったので、家の中に運び入れ、組み立てて、配置するまでがワンセット。これを1日に5~6軒ほど繰り返します。単調で、体力任せな肉体労働です。「一体自分はここで何をやっているんだ」。重たい家具を運びながら、何度思ったことかわかりません。

それでも続けたのは、学びがあったからです。売り場から届けられた家具が、実際にお部屋に配置された状態を見れるのは配送員だけ。これから家具業界で生きていくぼくにとって、他人の家を見る、家具が置かれる現場を知るというのは、貴重な経験でした。

1000軒の家を回って気が付いたことがあった

結局、配送の仕事は1年半続けたので、この間、1000軒余りの家を訪問したことになります。

多くの家を見て回る中で、気が付いたことがあります。それは、「家具がおしゃれだからといって、空間がおしゃれになるわけではない」と言うことです。

このメーカーで扱う商品の価格帯は、ソファで20万~30万円、ダイニングセットで15万円ほど。高級とまではいきませんでしたが、お店が青山にあることや、海外ブランドだったこともあってか、お客様は裕福そうな洗練された方が多い印象でした。配送先はタワーマンションや立派な戸建てばかり。夏の日のぼくは、短パン、タンクトップ姿で、汗もだらだらだったので、ご自宅にお邪魔するときは、なんだか申し訳ない気持ちになったものです。

「こんなにおしゃれで、お宅も立派なのだから、きっと中もおしゃれに違いない」。ところが、一歩家の中に入ってみると、どうでしょう。失礼ながら、垢抜けない。家具一つひとつは高級でおしゃれなはずなのに、なぜ……。