欧米ではむしろ手を加えた状態が評価される

一方で、欧米では、こうした状態をむしろ「味」としてポジティブに受け入れる感覚が強い。日本では、新築のマンションを買って、玄関の鍵を開けたその瞬間に、価格が3割引きになるのが一般的ですが、欧米では、中古の物件の方が価値が高い、という状況が珍しくありません。ペンキで塗り替えた壁や、時を経て色味が変わった床など、暮らしの中で、使い込み、住みよい環境のために手を入れてきた、その状態に価値があるわけです。

こうした価値観の違いは、インテリアに対する考え方にもつながっています。

本来であれば、家を買ったその日、最初の家具をそろえた日というのは、住まいを作っていくその「スタート」にすぎません。そこから、「飾り」を増やしていきながら、理想の空間を創り上げていくわけです。つまり、家の「ピーク」は、そうして手を入れてきた「今」やその先にあるのです。

ところが、大半の日本人にとって、家の「ピーク」は、最初にあります。新築、新品の時が一番良くて、あとは家も家具も劣化し、価値が下がっていくだけという考え方です。だから、家には余計な手を入れたくない。劣化した家具を買い替えるときも、「空間をつくっていく」という意識よりも、単純に古くなったソファAを新しいソファBに替えようとする。だから、家具にいくらこだわっても、空間自体の価値という意味では最初のピークよりも上回ることがないのです。

「点→点」売り方にも問題があった

これまで、日本人の家が垢抜けないその理由を、文化的背景からお話してきました。でも実は、それだけではありません。垢抜けない原因は、家具を売る側にもあると思っています。

みなさんはこれまで、家具を買うときにどのような接客を受けてこられたでしょうか。イメージしていただくために、1つの例をご紹介しましょう。

あなたは、今のソファが古くなったので、新しいソファを購入するため、お店に訪れました。入店すると、まず店員が声をかけに来ます。「何をお探しですか?」からはじまり、サイズやデザイン、予算の希望などを質問してきます。それを基に、候補をいくつか挙げて、その特徴やこだわりについて、詳しく説明してくれます。例えば、座り心地の秘訣が羽毛にあることや、肌触りが良く丈夫なのは、革のなめし方にこだわりがある、といったようなことです。

さて、この販売の何が問題なのか、お気づきでしょうか。ずばりこれは、「ソファ」そのものに焦点を当てた、「点」の売り方なのです。つまり、住まいの空間や、そこでの調和を意識することなく商品を提案しているということです。

リビングルームのインテリア
写真提供=リビングハウス

家具メーカーでは、いまもこうした売り方が主流だと思います。「問題」とは言いましたが、実はそれがダメなわけではありません。商品自体を知り尽くし、そのよさをきちんと伝えるということは確かに大切です。ただ、ぼくが言いたいのは、そういうやり方では、家具を買ったその先にある、「空間」の価値を高めることには必ずしもつながらないということです。