歴史には、目の覚めるような英雄が登場する瞬間がある。中国でいえば、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』で有名な項羽、ヨーロッパならナポレオン、日本では源平合戦の源義経や、戦国時代の織田信長……。
ところが、彼らは揃いも揃って晩節を全うしていないという事実があるのだ。
同じ現象は昨今のビジネスシーンでも起こっている。六本木ヒルズ族といえば成功者の代名詞のような存在だったが、不祥事続きによって大きくイメージを失墜させてしまった。
なぜ強者は強者のまま終わることができないのだろう。
中国の古代、同じ疑問を抱いていたのが、今回から取り上げる『老子』という古典にほかならない。
この本の著者については、正確なことはわかっていないが、内容から考えて、どうも古代の史官(歴史記録や文書行政を担当した官僚)の思想と関連があるらしい、といわれている。
史官たちは、王朝の歴史の記録から、やはり盛者必衰の法則を見出していた。
・強いものは必ず衰える。なぜなら自然に反しているからである。自然に反したものは長続きしない。
(物壮(ものさか)んなれば則ち老ゆ。これを不道(ふどう)と謂う。不道は早く已(や)む)30章
ところが中には、ごく少数ではあるが、強い権勢を誇っても、それを維持し続けられる人物や一族を見出すことができる。
両者の違いを生んだ要因として、『老子』は次のような傾向を指摘する。
・自分を是とすれば、かえって無視される。自分を誇示すれば、かえって排斥される。自分の功績を誇れば、かえって非難にさらされる。自分の才能を鼻にかければ、かえって足を引っ張られる。
(自ら是とする者は章(あらわ)れず。自ら見(あらわ)す者は明らかならず。自ら伐(ほこ)る者は功なし。自ら矜(ほこ)る者は長(ひさし)からず)24章
問題は、周囲の反感を買うか買わないか、という点にあるらしい。