確かに、先ほどの英雄たちにしろ、卓越した能力によって、敵に勝ち、課題をクリアする点では抜群に秀でていた。しかし同時に、周囲や部下に反感を抱かせてしまう行為も多く、結局足をすくわれて、長い繁栄を享受できなかったのだ。
だからこそ『老子』は、強者がその地位を維持するために必要な心がけを、こう指摘する。
・為政者の最高の美徳は、なにごとにつけ控えめに振舞うことである。
(人を治め天に事(つか)うるは、嗇(しょく)に若(し)くはなし)59章
・立派な人物は、賞賛されるにつけても批判されるにつけても、わが心をいましめる。
(寵辱(ちょうじょく)、驚くが若(ごと)し。大患を貴ぶこと身の若し)13章
つまり、周囲の反感を買わぬよう、常に慎重に振舞い、決して慢心するな、というのだ。
実は、これとそっくりのことを述べている現代のビジネス書がある。経営者の愛読書ナンバーワンに選ばれることも多い『ビジョナリーカンパニー(2)飛躍の法則』がそれだ。この本には、企業を飛躍させた素晴らしい経営者たちの特徴を分析した項目がある。
《おどろくほど謙虚で、世間の追従を避けようとし、決して自慢しない》
《成功を収めたときは窓の外を見て、自分以外に成功をもたらした要因を見つけ出す。結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える》
まるで、『老子』を超訳したような文面が並ぶが、それもそのはず、『ビジョナリーカンパニー(2)飛躍の法則』は基本的に、繁栄しつづける企業のリーダーを分析しているのだ。
2千年以上の時を超えて、強者が強者たり続ける原理原則が、ここに響きあっている。