なぜ信者数が10万人程度の小さな宗教の票田を狙うのか
そこで、疑問が生じる。仏教徒である安倍氏や議員は、本来の宗旨である仏教界(浄土宗)の票田を狙いにいったほうが合理的ではないのか。日本の仏教徒は総数で8400万人だ。うち浄土宗檀信徒は600万人である。統一教会の信者数は宗教情報リサーチセンターによれば56万人だが、実質はせいぜい10万人程度と言われている。
なぜ、わざわざ規模の小さい新宗教の票田を狙いにいくのか。
それは、伝統仏教教団の場合、政治家が集票を働きかけても、なかなか票に結びつかないのが実情だからだ。仮に、ある議員が浄土宗の信者だからといって、地元選挙区の浄土宗檀信徒がその議員に投票するかといえば、必ずしもそんなことはない。立候補者の菩提寺の檀家仲間が選挙応援やボランティアに出向くということも、ほとんどない。日本では菩提寺と檀信徒、あるいは檀信徒同士との結びつきは、良くも悪くも「ゆるい」のだ。
だから、政治家にとって教団と信者、あるいは信者同士の結束が強い、新宗教を狙うほうがはるかに票田としては魅力的に映るのだ。
しかし、今回は相手が悪かった。世界各国ではカルト教団として警戒されている統一教会である。安倍氏の取り巻きはもっと、統一教会の内情を精査すべきだった。オウム事件から四半世紀が経過し、カルトへの警戒を緩めてしまっていたことは否めない。政治家の節操のなさと、宗教に対する無知が、今回の悲劇を生んだともいえるだろう。