世界的な賢人12人のインタビュー・論考をまとめた『ウクライナの未来 プーチンの運命』が話題だ。「人は想像を超える事態を目にすると、しばしば思考停止に陥るが、目を背けてはならない。考え続けなければならない。賢人たちの言葉は、私たちにより深い視座を与えてくれるはずだ」と編集を担当したクーリエ・ジャポン編集部は言う。同書より、「プーチンという怪物を倒さなければならない」と主張して注目された、現代ロシアを代表する作家ソローキンの特別寄稿を一部公開する──。(第2回/全2回)

※本稿は、クーリエ・ジャポン編『ウクライナの未来 プーチンの運命』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

無慈悲な怪物

2022年2月24日、プーチンが長年、身にまとっていた「賢明な独裁者」の化けの皮ががれた。世界はこの日、妄想にとらわれた無慈悲な怪物を見たのだ。

この怪物は絶対的な権力と帝国主義的な攻撃性および敵意に酔い、ソ連崩壊へのルサンチマンと西側の民主主義への憎しみに駆り立てられ、成長してきた。今後ヨーロッパは、これまでのプーチンではなく、新たなプーチンと向き合わなければならない。

もはや平和は望めないだろう。

どうしてこのようなことになったのだろうか?

魅力的に見えた、かつては

映画『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の最後のシーンでは、「なかつ国」の住人たちにたくさんの苦しみをもたらした、呪われた力の指輪を、主人公フロドが灼熱しゃくねつの溶岩に投げ込むはずだったが突然考え直し、その指輪を自分ではめたいと考える。

指輪の力でフロドの表情は変わり、怪物と化すことが予見される。力の指輪は今やフロドを支配してしまったというわけだ……。

ウクライナの抗議
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プーチンが1999年に病身のボリス・エリツィンによって王座(大統領代行)に据えられたとき、彼は親しみやすいどころか、魅力的にさえ見え、言っていることもまともに思えた。

傲慢ごうまんさや慢心のない、賢明な役人が権力のピラミッドの頂上に就いたのだと、多くの人は思い込んだ。ソ連なき後のロシアは民主主義の道を歩むしかないと理解している、現代的な人が現れたのだと。

運命の指輪

当時はプーチン自身も、インタビューで民主主義について多くを語り、市民たちに対してはロシアの連邦制度の改革、自由な選挙、言論の自由、西側諸国との協力を約束していたのだ。そしてとりわけ、権力の椅子にしがみつくつもりはない、と言明していた。

率直で、相手を理解しようと心がけ、真面目で、しかしユーモアがあり、自嘲的なところさえあった。

今日ではプーチンと激しく敵対しているとみなされている政治家、知識人、政治工学者も、当時はプーチンを支持していたし、なかには次の選挙に勝つためとあらばプーチン陣営に所属する人もいて、それでうまくいったのだ。