だが、そのときにはもう、運命の指輪はプーチンの指にはまっていた。刻一刻と、プーチンは帝国主義の怪物へと変貌していった。
独裁者の系譜
ロシアでは、歴史的にも現在も、権力構造はピラミッド型になっている。このピラミッドは16世紀にイヴァン雷帝によって作られた。パラノイア(偏執症)にとりつかれ、悪徳におぼれた、恐ろしいツァーリ(皇帝)だ。
オプリーチニキという親衛隊の力を借りてイヴァンは、権力と民衆、自分の味方とそうでない者の間に血塗られた楔を打ち込んだ。ロシアを統制する方法はただ1つ、奪い取り、自分が国の占領者になることだとイヴァンは確信していた。
残忍で、民衆には見通すことのできないような権力が必要だった。民衆はその力を崇拝するだけだ。その暗黒のピラミッドの頂点にいる人が、すべての権利と絶対的な権力を持つ。
道理に合わないことかもしれないが、そこから500年、この権力の原理はロシアでは変わらずに残り続けた。我が国の決定的な悲劇はここにあると、私は考えている。中世のピラミッドは、表面だけは変わったが、構造はそのまま、現代まで保たれたのだ。
頂点には常に独裁者が君臨していた。そしていまは20年以上、プーチンがそこに君臨している。かつての約束を反故にし、彼はこの椅子にしっかりとしがみついている。
過去へと押し戻される国家
権力の座に就くやいなや、プーチンは変わり始めた。
自由な報道姿勢を維持していたテレビ局NTVは潰され、テレビ局はプーチンの取り巻きの手に渡り、厳しい検閲制度が確立された。それ以来、プーチンはいかなる批判もされないようになった。
ロシアで最も成功した企業の経営者だったミハイル・ホドルコフスキーは逮捕され、10年間投獄された。ホドルコフスキーのユコス社はプーチンの仲間に略奪された。
この“特殊作戦”で、ほかのオリガルヒを怖がらせることに成功した。一部はロシアを去り、残った者たちはプーチンにひれ伏し、プーチンの「財布」となった者もいた。
ピラミッドは静かに振動し、時間が止まった。巨大な氷の塊が流されるように、この国は過去へと押し戻されていった。まずはソビエト時代に、そしてさらに過去、中世に。