三重県伊賀市のアスパラ農家「瑞雲ファーム」代表の中井奈緒美さん(44)は、35歳のときに急逝した義父のビニールハウスを引き継ぎ、まったくの素人の状態でアスパラ農業の経営に飛び込んだ。しいたけ栽培にも手を広げた中井さんが、自販機での販売を開始し、そのそばにガチャガチャを置いたのはなぜか。フリーライターのみつはらまりこさんがリポートする――。(後編/全2回)
瑞雲ファーム代表の中井奈緒美さん
撮影=みつはらまりこ
瑞雲ファーム代表の中井奈緒美さん

「絶対に譲れない」全国大会の金賞

毎年1月初旬、品評会が近づくと瑞雲ファームの空気が変わる。奈緒美さんがピリピリしだし、夫が機嫌を伺うようになる。しいたけの全国大会での金賞は、彼女にとって「絶対に譲られへん」ものだからだ。

2019年10月に栽培を始め、翌年の初出品で銀賞と奨励賞。2年目で金賞を獲得し、2023年から3年連続金賞という記録を打ち立てた。2025年の第35回品評会では、全国から556点が出品され、金賞はわずか18点。しかも奈緒美さんが栽培する品種での金賞は、18点中8点しかない。

4500菌床の小規模農家が、何万菌床を抱える大規模農家を押しのけての快挙。「分母が小さい中でいいものを取るのと、分母が大きい中で取るのでは価値が違うと思っていて。本気なんです、私」と力強く言い切る。

品種を絞って今年で5年目。奈緒美さんはしいたけの“性格”を完全につかんでいる。ハウスに入った瞬間、「ちょっと水が少ないな」「乾燥しているな」と肌感覚でわかる。温度が適温の23度を示していても、菌床が求めているものは違うこともある。一つひとつ叩いたり、水につけたりして刺激を与える。データではなく、4500個の菌床との対話だ。

「言うことをきかせたい時は、こっち主導でコントロールできるようになりましたね」

しいたけの売り上げだけで、年商800~1000万円。この実績の裏には、栽培を始める2年も前から動き出していた奈緒美さんの執念があった。

瑞雲ファームのしいたけの傘はプリッと厚みがあり、ヒダが細かい
撮影=みつはら まりこ
瑞雲ファームのしいたけの傘はプリッと厚みがあり、ヒダが細かい

「絶対あそこに並べる」栽培前から狙っていた金賞

急逝した義父のアスパラ栽培を継いだ2016年。

10月以降、アスパラ栽培は“待つ期間”に入る。緑の葉が黄色、そして茶色に変わり、養分が根に移っていく。1月頃に枯れた葉を刈り取れば、春には新芽が顔を出す。「10月~1月、手が空く時期に何か作れないか」。そう考えていた矢先、JAの指導員から「しいたけ」の話を聞き、興味を持った。

まだしいたけ用のハウスもない2017年1月、さっそく品評会に足を運んだ。「栽培しているの?」と聞かれれば「まだしていません」と答える。周囲は驚いたが、奈緒美さんには明確な目的があった。

「アスパラを継いだ時、一番困ったのは相談する人がいないことでした。だから栽培を始める前から品評会や研修会に出向き、三重県内のしいたけ農家と行動を共にしたんです。栽培方法を学ぶだけではなく、横のつながりを作りたくて」

右も左もわからずに訪れた品評会で、忘れられない光景がある。会場一面に並ぶしいたけ。その最前列に「金賞」の札とともに飾られた逸品の数々。

自分が栽培したしいたけを、絶対にあそこに並べる――。