「売り上げ」より「賞」

2019年10月、アスパラの売り上げ600万円を投じて、ついに栽培を開始。4000個の菌床でスタートし、初年度で投資額を回収した。だが、奈緒美さんは売り上げに満足しているわけではなく、あくまで賞にこだわる。

「受賞は、第三者の評価です。義父のアスパラを継いだ時、『あんな嫁、すぐ辞めるわ』と言われました。だから、『絶対見返してやる』って、決めていたんです」。静かに、だが力を込めて続ける。

「金賞を取れば、私が積み重ねた事実の根拠を示せる。5年目の今は、金賞を取り続けることが自分へのいいプレッシャーにもなっています」

第35回品評会で3年連続金賞を受賞した笑顔が、輝いている
写真=瑞雲ファーム提供
第35回品評会で3年連続金賞を受賞した笑顔が、輝いている

しいたけ栽培で「時間を作る」

2019年にしいたけを栽培し始めてから、瑞雲ファームの経営は変わった。4~9月はアスパラ、10月から3月はしいたけ。年間を通じて収入が途切れることがなくなった。

取材で訪れた10月末、筆者は収穫後のしいたけハウスに足を踏み入れた。4500個の菌床が棚にびっしりと並び、ところどころ小さな芽が顔を出している。この塊一つひとつは、半年間で最大1キロのしいたけを生み出す。

4500床の菌床が並ぶハウス内は、しいたけの声が聞こえるのではないかと思えるほど静かで、澄み切った空気だった
撮影=みつはらまりこ
4500床の菌床が並ぶハウス内は、しいたけの声が聞こえるのではないかと思えるほど静かで、澄み切った空気だった

菌床は、収穫を終えると10日ほど休み、また次の収穫のピークが来る。このサイクルは半年で9回から10回。どれだけの収穫量を引き出せるかは、栽培者の腕次第だ。

「1年目、2年目は正直、下手でしたね。今思えばもっと出せたはず」。5年目の今、奈緒美さんは9ターンをきっちり回し切る。

2年目には、4000床から4500床に増やした。乾燥しいたけや全国発送も軌道に乗り、しいたけだけで年商800万〜1000万円。初年度から200万〜300万円は伸びた。

さらに、しいたけ栽培にはアスパラにない強みがある。アスパラは気温に関係なく毎日伸び続け、収穫を止められない。一方、しいたけは成長速度をコントロールできるのだ。ハウスには灯油の暖房機があり、日中は23度、夜は10度を保つ。暖房を切ればハウス内が冷えるため成長は穏やかになる。

「例えば、息子のサッカーの試合を見に行きたい日は、朝だけ収穫して暖房を切ったりしていて。農業と生活を回すのは大変だけど、設備を利用してなんとか時間を作っている感じです」

アスパラではできない、「時間を作れる」利点。栽培する作物が増えれば忙しくなると思いきや、しいたけ栽培は収入と家族の時間の両方を作ってくれている。

時期によって変わるが、しいたけは筆者のこぶし大ほどのサイズが5~6つ、1000円で販売されている
撮影=みつはら まりこ
時期によって変わるが、しいたけは筆者のこぶし大ほどのサイズが5~6つ、500円で販売されている